『ぐへへへ……王子に夜這いをかけようとは、領主の娘とやらは随分とアグレッシブじゃなあ』

 ネコがニヤニヤして言う通り、年頃の領主の娘がミケの充てがわれた客室に合鍵を使って忍び込んだようだ。
 ちょうど日付を跨ぐ頃のことである。

「どうして、自国民にまで警戒しないといけないんだ……」

 危うく夜這いされるところだったミケが、うんざりとした顔でため息を吐く。
 戦勝の英雄で独身、加えてこの美貌である。
 夕食の席でミケと顔を合わせた瞬間から目がハートになっていた領主の娘は、彼との間に無理矢理にでも既成事実を作ろうと目論んだのだろう。
 しかし、彼女の絡みつくような視線を察していたミケは、領主サイドに知られないようあらかじめ部屋を移動していた。
 その避難先がここ──私とロメリアさんとメルさんの女子部屋である。

「殿下は、わたくしに襲われるとは思いませんでしたの?」
「ロメリアはそもそも、私に微塵も興味がないだろうが」
「ええ、殿下の外側には。けれど、内側……特に、骨は興味深いと思っておりますわ。殿下が死んだら骨格標本にしてもよろしくて?」
「普通に嫌だが?」

 冗談か本気かわからないロメリアさんの話に、ミケはますます顔を顰める。
 膝の上で丸くなったネコを撫でながらそんな二人を眺めていると、ロメリアさんがくるりと私に顔を向けた。
 そして、それはそれは麗しく微笑んで言うのだ。

「わたくし、タマにもとても興味がありますの。刺し傷を縫う前にもう少しお腹の中を観察しておけばよかったと後悔しておりますわ」
「もう少しって何ですか? ちょっとは観察したんですか!?」
「だ、大丈夫ですよ、タマコ嬢! あの、ちょっと、ほんのちらっと、臓腑が見えたくらいで……」
「内臓見られるとか、はずかしいいいいっ!!」