──きゃああっ! 
 
 若い女性の、絹を裂くような悲鳴が夜の屋敷に響き渡った。

 ──きゃああっ!!

 時を同じくして、男性達の野太い悲鳴も上がる。
 それらを少し離れた部屋の中で聞いていた私とミケは……

「やはりこうなったか……」
「予想を裏切らない展開ですね」

 顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

 この日の早朝、ミケ率いるベルンハルト王国軍の一行は、ラーガスト王国を目指して王城を出発した。
 総督府の交代人員も含め、総勢二百人余りの中隊規模だ。
 ミットー公爵や准将といったお馴染みの将官達に加え、軍医としてロメリアさんとその護衛のメルさんも同行する。
 ミケや将官達、メルさんは、戦時中も苦楽を共にした愛馬に跨った。
 一方、私はネコ達と一緒に、トラちゃんを護送する馬車に乗る。
 ミケは当初これに難色を示したが……

「わたくしが同乗すると申しているではありませんか。護送用のこの馬車が最も頑丈ですし、庇護対象は一台にまとまっていた方が警備もしやすいでしょう」
「それはまあ、そうなのだが……」
「ご安心くださいませ。道中、わたくしが殿下の分までおタマを愛でまくっておきますので」
「……私は挑発されているのか?」

 ロメリアさんを恨めしそうな目で睨みつつ、最終的には首を縦に振った。
 天気にも恵まれて旅は順調に進み、日が落ちる前に最初の宿営地に到着する。
 王都から馬車で一日の距離にあるのは、豊かな小麦畑を有する大きな荘園だ。
 収穫を目前に控え、辺り一面黄金色に輝いていた。
 広々とした草原に天幕を張った軍隊は地元住民の歓迎を受け、温かい食事を振る舞われる。
 そんな中、ミケは荘園を管理する領主の屋敷に招き入れられた。
 領主からすれば、王子に野宿などさせられるはずがない。
 なにしろミケは、先の戦を勝利に導いた英雄としても、国民の間で絶大な人気を誇っているのだ。
 将官達、ロメリアさんとメルさん、そして私とトラちゃんも相伴に与ることになり、数人の護衛とともに客室へと案内されたのだが……