「あら、イヴ様はコーディ様とご一緒なのですね。てっきりおひとりかと思いましたわぁ」 

 にたにたと笑うユミアにふふっ。と作り笑いを浮かべる。

「コーディ様が誘ってくださったんです」
「あら、そうなのですね」

 ユミアの声のトーンが低くなった。私がコーディ様から誘いを受けたのが気に食わないのだろう。バトラーは相変わらずキョロキョロと辺りを見渡している。煮え切らないのが見て取れる。
 パーティーが始まった。私とバトラーがステージに向かい結婚の日取りを皆に伝える時間が訪れる。
 バトラーは顔を強張らせていた。するとそこへユミアが予想通り現れる。

「お待ちなさい!」

 ユミアが大声で場を遮る。そして勝ち誇った笑顔を見せながら私に指を指した。

「イヴ様はコーディ様と仲が大変よろしいご様子! 婚約者であるバトラー様を差し置いて! イヴ様は本当はバトラー様ではなくコーディ様をお慕いしていらっしゃるのではなくて?!」

 一字一句予想通り過ぎて笑えるくらいだ。これも実はコーディ様のメイドがユミアにそう言うようにと告げ口したからなのだが。

「……ええ。ユミア様の仰る通りです」

 この私の返答も計画通りのものだ。

「バトラー様ぁ! イヴ様と婚約破棄なさって! 代わりに私があなたをお支えしますからぁ……!」

 ユミアがバトラーの右腕に抱き着いた。私はバトラーの言葉を今か今かと待つ。

「イヴ、本当なのか」
「ええ……はい。だから婚約破棄してくださって結構です」
「そうか……なら、イヴ。お前との婚約を破棄する」
「ありがとうございます。ではサインさせてくださいませ」

 バトラーの元に彼の両親が駆け寄る。

「バトラー! 騎士団長になるチャンスを手放すのか!」
「バトラー、考え直したら?」

 まるで茶番のように見えて仕方ない。しかしこのあとこのバトラーの父親にも明かすべき事が控えているのだが。
 バトラーは両親に構わず私の要求通りに婚約破棄の証明書を用意するよう近くの執事に伝えた。周りはざわついているが今はそれが笑えるくらいに愉快に思う。
 しばらくして婚約破棄の証明書が届いた。私とバトラーのサインが終わると証明書をコーディ様が受け取る。そして真っ先に嬉しそうな笑みを浮かべるユミアへ口を開いた。

「良かったなユミア。君は晴れて……兄上の妻だ」
「へ?」
「知らなかったのか? ユミアとバトラーは兄妹だ。バトラーのお父様、お心当たりは無いか?」

 周囲の空気が一斉に凍りついた。バトラーの父親は何の事だか知らないとしらを切るがそれはコーディ様の目の前では通じなかった。バトラーの母親は怒り狂いだし父親を問い詰めるも確たる返事は出てこない。

「嘘ですわ……それじゃあバトラー様と結婚出来ないじゃないのよぉ!」
「ああ、そうだよ。兄妹婚はうちの国では禁止されている」

 コーディ様はユミアを冷たく突き放す。

「じゃ、じゃあコーディ様でいいわ! コーディ様、私と結婚しましょう!」
「コーディ様「でいい?」」
「へ」
「無礼だな、ユミア。連れて行け!」

 近くにいた兵がコーディ様に失言をしたユミアをすぐに取り押さえる。

「ちょっと! 放しなさい!」

 バトラーは呆然とし、バトラーの両親は夫婦喧嘩をし続けたのだった。

「……やり過ぎたかな」
「いえ、これくらいでちょうど良いかと」
「そうか。では……改めて私の妻になってほしい。イヴ」
「はい。コーディ様」

 それから私はコーディ様と婚約した。ユミアは公爵家の無礼とバトラーの両親からバトラーを唆したという告発により自宅軟禁となった。貴族学校は中退するそうだ。
 また、バトラーの母親は離縁し別の男性と再婚した。バトラーの親権は父親にあるそうだが、バトラーと父親の仲は険悪なままだという。私達の家族はバトラーの家族とは縁を切った。一応バトラーの母親の再婚には立ち会った。
 貴族学校を卒業した私とコーディ様はすぐに式を挙げたのだった。勿論この結婚は互いの両親からも大いに祝福を受けた。

「イヴ、必ず幸せにしてみせるよ」
「ありがとうございます。コーディ様」