「コーディ様」

 ああ、コーディ様がここまで私を思ってくれるとは。私は顔を赤く染めつつも申し訳なさと嬉しさが複雑に織り交ざった感情を顔に浮かべていた。

「……すまない。困らせてしまったようだ」
「いえ。コーディ様は悪くありません。ここまで優しく慰めてくれるのはコーディ様だけですし……」

 バトラーがユミアを優先しているという事は両親にはまだ打ち明けられていない。家族との仲が悪いという事は無いのだが、やっぱりどうしても言いづらい。今こうしてコーディ様と一緒にいるという事も向こうが知ったらどのような顔をするだろうか。コーディ様は公爵家なのでまず嫌な顔はしないだろうなとは予測できるのだが。

「そうか。そうなんだね。家族とは?」
「言えてません。申し訳ないと言うか、言いづらいというか……」
「まあ、バトラーは婚約者だからね。言いづらい気持ちは理解できる」
「そうですか……」

 コーディ様の言葉が身に染みる。涙が出てきそうだ。

「そろそろ寝ようか。ちょっと早いかもしれないけど。それとも家に帰る?」
「……いや、ここにいます。鉢合わせになっても嫌なので」
「そうか。じゃあ」

 コーディ様は私の手を離し、部屋を後にしようとする。

「ま、待って!」
「イヴ?」
「……もう少し、ここにいてほしいの」
「……分かった」

 それからコーディ様はベッドで私と並んで座り、授業についての話や互いの趣味などの雑談をしてから互いの部屋で床に就いたのだった。
 コーディ様はキスもハグもしてこなかった。それは彼なりに一線を引いているというのが十分理解できた。
 しかし、私は心のどこかで彼とのそういう行為を期待していたのかもしれない。ちなみにバトラーとは何度かキスはした事ある。

(何だろう、私もしかして……コーディ様を好きになってしまっているかも)

 彼への恋心が芽生えつつあるのを自覚した時が丁度夜明けだった。目が覚めたのでベッドから起き上がり部屋から出ると丁度廊下をメイドが歩いて花瓶の水を新しくしている場面に遭遇する。

「おはようございます。イヴ様。よく寝られましたか?」
「ええ、おかげさまで。よく寝られました」

 頭の中をずっと巡らせていたのでそこまでぐっすりとは寝られていないのだが、無意識に嘘をついてしまった。

「良かったです。朝食はどうされますか? もう頂かれますか?」
「ええ、お願いします」
(一旦家に帰ろう)

 私はドレスに着替えて食堂で早めに朝食を頂く。メニューはベーコンにトーストとスクランブルエッグ。どれも暖かくて美味しいものだった。
 食堂で朝食を頂き、食後の紅茶を飲んでいる時にコーディ様が入室してきた。彼もまた寝間着から服に着替えている。朝の挨拶を交わすとこの後どうするのか。と尋ねられたので一度家へ戻る事を伝えると、一緒に向かうと言ってくれた。