「夕食も食べるよね?」
「はい。ぜひごちそうになりたいです」
「ああ。ゆっくりしていって。それにしてもバトラーは酷いな」
「ああ……」
「あのユミアも酷いけれどバトラーも酷い。俺がバトラーならイヴにあんな事はしないのに」

 そう語るコーディ様の厳しい目には怒りが籠もっているように見えた。さっき私が馬車に乗り込む時は優しい天使のような目つきをしていたのに。

(コーディ様がそんなに怒るなんて見た事が無い)
「あの、コーディ様……」

 彼を怒らせるような事を(うちの婚約者が)してしまい申し訳無い。そう謝罪の言葉をコーディ様に語った。

「イヴが謝る必要は無いよ。でも気持ちは分かる。俺が同じ立場になったらそうしていたと思うから……」
「コーディ様」
「さあ、俺の家でゆっくりしていこう」

 馬車がゆっくりと減速し、停車する。コーディ様の手を借りて馬車を降りるとそこには私やバトラーの屋敷よりも広く巨大な白亜の屋敷が鎮座していた。

(ここが……クルエルティア公爵家のお屋敷……!)

 屋敷の黒い大きなアーチ状の鉄門がゆっくりと開かれ、メイドや執事らがこぞってコーディ様を出迎える。

「コーディ様、おかえりなさいませ」
「皆、今日はイヴもここで泊まる事になった。おもてなしをよろしく頼む」
「はい、承知いたしました」

 私は早速彼らの出迎えを受け、その足でメイドとコーディ様先導の元部屋を案内される。どの部屋もうちの家以上に広くて高級そうな小物や装飾品が彩っている。財力の違いをまざまざと見せつけられ、思わずぽかんと口が開いたままになってしまう。

(すごい……さすがは公爵家。こんなに豪華だなんて)
「イヴ、どうしたの? 開いた口がふさがってないようだけど」
「す、すみません……豪華すぎて驚いてしまったと言うか」
「そうか、よく言われるんだ。この屋敷は100年以上前に建てられたものなんだけど皆のメンテナンスのおかげで保存状態も良好に保たれている。皆には感謝しかないよ」

 100年以上前に建てられたものだとは。これ以上に無いくらい煌びやかさを保っているのは彼の言う通り執事やメイドらの日々の勤めによるものが大きいのだろう。

「イヴ、先にシャワー浴びてきたら? その間に夕食を用意しよう」
「いいんですか?」
「ああ。俺もシャワーを浴びて来るよ。疲れただろうしゆっくりしておいで」
「わかりました……」

 私はメイドに案内されて、シャワールームまで向かう。白亜と茶色のコントラストが美しい廊下には一定間隔で花瓶が配置され、色とりどりの花がたくさん生けられている。

「こちらになります」

 脱衣所も広々としていて爽やかな良い匂いが辺り一面に立ち込めている。ガラスの扉の奥には大きな円状の浴槽と金で彩られた蛇口やシャワーなどが見えた。