「全てかどうかは、わかんない…けど」
さっきまでとは違うこの雰囲気に声が小さくなる。
緊張を誤魔化すためにハハ、と笑う私に律はぐっと近付いた。
「っ、なになになになに」
するするとそのままソファに倒れる形になった私たち。
私を見下ろす律は、何も言わない。
「律、冗談?」
律が怖いとかじゃない。
見たことない律に、ドキドキして、緊張して、このまま流されそうな自分が怖い。
「男の家に泊まるって、こういうことじゃないの?」
「律は、友達でしょ」
「さすがに手出る。志保でも」
「私でもって、失礼だよ」
「そういう意味じゃない。逃げないの?キスするよ」
ゴクリと唾を飲んだ。
「…律なら、いいよ」
「何で」
「何で、だろう。…酔ってるから?」
「……」
「……」
暫く見つめ合ってはみたものの、「ハイ、しませーん」と言ってソファから体を起こしたのは律だった。
やっぱり律は、私にそういうことをしない。
別にいいけどさ。
がっかりしている私は一体何なんだ。
律となら、してもいいって思ったのはお酒のせいじゃない。
結局私は下心を持ってここに来たんだと自覚させられる。
いまこの瞬間。
素直になれたら何かが変わったのかな。
それとも、
こんな距離感がやっぱり丁度いいのかな。
「律、ヘタレじゃん」
「は?チョロい奴に言われたくねーわ」
そんな憎まれ口を叩き合いながら、今日も私はバタバタと終電で帰されるのだった。
おわり



