「……レニエラ! 良いから、余計なことは何も言わずに黙っていなさい。私は赤ん坊の頃から育っていくのを見ていたレニエラのことが、本当に可愛いの。お願いだから……良い嫁入り先を掴む、千載一遇のチャンスを絶対に潰さないでちょうだい」

 私の耳元で興奮のあまり小声とは言い難い音量で囁く叔母が、こうして不肖の姪の幸せのために、やたらと必死になってくれるのは嬉しい。

 それに、ドラジェ伯爵跡継ぎの弟に養われて生きていくなんて、性格的にまっぴらごめんだし、女だてらに事業家として一人生きていく術を探っていたのだ。

 今後の付き合いが……と日和る両親に代わり、アストリッド叔母様がもぎ取って来てくれた婚約破棄に対する慰謝料で、事業用の農園も購入し、これで下準備はバッチリで商品の試作品作りへ……という段階に至っていた。

 なのに、そこに降って湧いたのは、求婚者として申し分ないどころか、最高の嫁入り先と言って差し支えないモーベット侯爵から私への急ぎの縁談。

 もうこのヴィアメル王国では貴族としての身分が釣り合うような誰からも求婚されないだろうと諦めていた私には、あまりにあり得ない縁談で身分不相応過ぎて、夢の中のようと舞い上がって喜ぶどころか、一周まわって逆に落ち着いてしまっている。

 だって、モーベット侯爵は別に私が妻に良いと思って申し込んでくれた訳でないと、痛いくらいに理解しているからだ。