温泉のある離宮は王都からそう距離は離れておらず、王家専用の狩り場がある森を、馬車で一時間ほど走らせた先にあるらしい。

「……レニエラ。少し、話があるんですが」

「はい? なんでしょう。ジョサイア」

 馬車の窓から流れる町並みを見ていた私は、背もたれに完全に身体をもたせかけ、疲労のためか、ぐったりしていたジョサイアに声を掛けられ、なんだろうと首を傾げた。

「最近、昼に邸を空けることが多いとか……執事に聞きました」

「ええ……確かに、そうですけど」

 事業に使う農園に行ったり……ジョサイアの元婚約者オフィーリア様がどうしても気になってしまい、彼女が居るという港街シュラハトにも、何度か行っていたりしていた。

 とはいえ、オフィーリア様と彼女を愛人としているという大富豪の二人は、居場所を隠すこともなく堂々と高級宿に滞在していたので、彼女の居場所は既に確定済。

 侯爵から逃げ出して駆け落ちした騎士と別れたのなら次の男かと、街中でひどい噂になり、今では彼女たちのことを知らない人を探す方が難しいらしい。