婚約破棄されて自分が貴族令嬢として今までに当たり前のようにあったものをすべて失い、家のため何の役目も果たせないと理解した時に、私は確かに絶望したんだから。



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 久しぶりに夜会に行くために時間を掛けて準備をして、私は螺旋階段をゆっくりと降りた。高い踵の靴が歩きづらく、久々にダンスが出来るのか不安になってしまう。

「レニエラ……美しい。良く似合う。このドレスも君に良く合っている」

「まあ、ありがとう。ジョサイア……このドレスも……ありがとう」

 ついこの前完成したばかりの新しいドレスを着て、髪を結い上げた私を見て、玄関ホールで待っていたジョサイアは手放しで褒めてくれた。彼も夜会用のジュストコールを着て、いつもは下ろしている髪を撫でつけていた。

「ドレスを買って……」

 苦笑したジョサイアは不自然に言葉を止めたので、私は彼の困った顔を見て察した。

「ドレスを買ってお礼を言われたのは、初めてなの? 貴方って、浮気はしない方が良いわね。ジョサイア。話を誤魔化すのが、下手過ぎるもの」

 私はジョサイアの腕を取って、彼と一緒に歩き出した。時間通りにここに来た訳だから、話込んでいると遅れてしまう。

「……浮気をする気は、一生ないよ」

 憮然として言ったジョサイアに、私は肩を竦めた。

「そうね。貴方はとても真面目な性格だもの。行きましょう。陛下より直々にご招待を受けたのに、夜会に遅刻は出来ないわ」