「はは。姉さん……何をわかり切ったことを言ってんの。まあ、それはそれは、忘れられないことだろうね。結婚式直前に一介の騎士と駆け落ちされて、自分と侯爵家の面子を丸つぶれにされた訳だから……僕が義兄さんだとしても、一生、彼女のことを忘れられないと思うよ」

 皮肉気なゆっくりとした口調でアメデオはそう言うと、お茶を飲んでから長い足を組んだ。

「確か……かのオフィーリア・マロウと駆け落ちした相手は結局自分の家に帰って、あれは気の迷いだったから家に戻りたいと泣き落とししたらしいよ。モーベット侯爵家がどんな条件で、果たされなかった婚約について手を打ったかは知らない。それに、マロウ伯爵令嬢も、報いは受けたと思うよ。少なくとも、あれをやって我が国の社交界に戻るのは無理だろうね」

 私は婚約破棄されてからというもの、ほぼ引きこもっていたので、噂を聞くような人脈だって今はない。だから、アメデオの話を聞くまで、そんな事態になっているということを知る術はなかった。

 だって、真面目なジョサイアは絶対、私にオフィーリア様の話を敢えてはしないもの。

「え。それって、彼女はどこに行ってしまったの……?」

「僕も噂に聞いた限りだけど……あの、大きな港街シュラハトがあるだろう? なんでも駆け落ちした騎士と別れた後に、そこに船団を持つ、豪商の愛人みたいな立場に納まっているらしいよ。つまり、乗り換えたんだろうね。義兄さんが居場所を知っていても、彼女に会いに行っていない時点で、二人の関係はどういったものか知れるけどね」