心がきゅんする契約結婚~貴方の(君の)元婚約者って、一体どんな人だったんですか?~

 私の動きに不思議そうなジョサイアに、指輪の金額が気にいらないは言えない……だって、彼はそれを知りつつ、即購入しようとしていたのよ。

 値段については、君は気にしなくて良いよと微笑んで購入する光景が、すんなりと想像出来るわ。

「ごめんなさい。私、金剛石より、他の宝石が良いです」

「……そうか、気が利かず、すまない。それでは、妻のような年頃の女性が好みそうなものを何個か出してくれないか」

 そして、店の奥の特別な個室に恭しく通されて、艶々とした紺の天鵞絨«ビロード»の上に、一目見て高価だとわかる指輪がいくつも並んだ。

 この店の常連顧客だというモーベット侯爵家は、どれもこれも、高価な宝石しか出して貰えなかった。

 正直に言えば数ランク下の装飾品しか身につけたことのない私は、ただそれを見ているだけでお腹いっぱいになった。

 どれを選んでも高くつきそうで、私は「大事な婚約指輪ですもの。一度帰って、よく考えたいわ」と引き攣った笑みでジョサイアへと訴え、どうにかその宝石店から撤退することが出来た。