「まあ! ジョサイア。気にしなくても良いのに。けれど、モーベット侯爵と結婚していると言うのに、婚約指輪がない方が確かにおかしいかもしれませんし……ここは、ありがたく頂きますわ」

 貴族たちは社交場では、結婚した夫婦の婚約指輪の話でも盛り上がることになる。私が誰かにまだ婚約指輪を貰っていないなんて言ったら、社交界で下がってしまうのは、私ではなくジョサイアの評判。

 ここは遠慮せずに、お互いのためにも指輪を頂いておこうと微笑んだ。離婚する時には、彼に返したら良いわ。ここまでの高級店の宝石は、値段が下がらないだろうし。

「僕から婚約指輪を受け取って頂けるとは、光栄です。レニエラ」

「ふふ。私たちもう、結婚済みですけど」

 私たちが喋りながら近付いたので、高級店らしくドアボーイが上部にある鈴をカランと音をさせて扉を開けると、そこは透明なガラス製の箱に、きらびやかな宝石が並ぶ。

「まぁ……綺麗ですわね」

 私は今の店内での目玉なのか、一際豪華な指輪とネックレスのセットへ目を留めた。

「気に入りましたか?」

「ええ。職人の技を細部から感じますわ。素晴らしい品です」