折良く天気の良い休日に、初めて私たちは二人で出掛けることになった。

 モーベット侯爵家の馬車は室内も内張りされた生地にも高級感に溢れ、車輪もなめらかにまわり、とても乗り心地が良い。

 ジョサイアが目的地の劇場に着く前に寄りたい場所があると連れて来てくれたのは、なんとモーベット侯爵家御用達の宝石店だった。

 そうつまり、王都でも最高級店として名を知られる、有名な宝飾店だったのだ。

「レニエラ。式までに時間もなく、大事な婚約指輪も用意出来ずに、申し訳ありませんでした。良かったら、今日お好きな物を選んでください」

 店の前で驚きを隠せない私に、ジョサイアはそう言った。

 ヴィアメル王国では、古くからの慣例として婚約が成立した時には指輪を男性から贈る。私たちは問答無用ですぐに結婚したから、確かに婚約という大事な行程をすっとばしてしまっている。