もうこの時点で、自分にはこの先貴族令嬢が通常歩むような、まともな結婚をすることは無理だろうと冷静に判断した私は、長年連れ添った元婚約者に、別れの挨拶がわりに無言で微笑みつつ近くに置かれていたホールケーキを顔にぶつけた。

 私が泣き叫んで嫌がるとでも思っていたのか、彼は意味がわからないとでも言いたげな、ぽかんとした表情になっていた。

 とても無様な様子に、隣に居たご令嬢にも悲鳴を上げて逃げられ、呆然とした表情を見て、それまでに味わったことのない爽快な気持ちになったものである。

 ちなみに私は、婚約破棄されていても、後悔は全くない。

 婚約中の何年間にも及ぶ気が重い日々を思えば、普通の幸せな結婚が遠ざかったとしても、あの元婚約者との関係から解放されて、本当に良かったと思っている。

 そして、私はこれからの自分にとって一番良い道、職業婦人として事業を起こし、実業家としての道を選ぼうと心に決めて、これまで着々と準備を進めて来た。