「その時のレニエラは、泣きそうになっていたし、人前だからと懸命に涙を堪えて我慢しているように見えました……すぐにでも傍に駆けつけたかったんですが、僕はその場に居ないはずの存在で、表に出ることは許されませんでした」

 これは、おそらく王太子の帝王学の学びのひとつなのかもしれない。彼はそんな風に直接交流することなく、臣下たる貴族たちの顔を幼い頃から見知って覚えているということなのかしら。

「それは……仕方ないと思います。ジョサイアはアルベルト様と共に居たから、彼の存在を暗示させてしまう。表に出られなかった理由は、理解出来ます」

 王太子は特別な存在で、未来に王となれば国を背負うことになる。だから、彼よりも年下の王子や王女たちとは違い、不用意に私たちの前で姿を見せなかった。

 王太子の彼は王族の中でも、特別な存在だったからだ。