翌日は、体調が悪いと芹に嘘を吐いて、ずっと部屋にいた。昼過ぎに、一度だけ芹が食事を持ってきてくれただけで、あとは本を読んだり、考え事をしたりして過ごした。

夜中に、離れたところで物音を聞いただけで、苑の姿は、知らない者達に襲われかけた日以来、見ていない。



翌々日は、さすがに寝込んでいるわけにはいかず、また芹と過ごすことになった。



一、二日で解放はできないかもしれないと芹は言っていた。

それは、「わたしの正体」という者が分かっていないからで、何でもないと分かったら、ここから出られる。

だけど、芹は詳しくわたしに聞こうとはしないし、苑は接触さえしようとしてこない。



パズルのピースは十分には揃っていない。だけど、完成したらどういう絵が見えるのか、そういうことが、なんとなくだけど分かりかけていた。

ピースは、お屋敷のなかにいくつか落ちていた。



仏の顔も三度までだという。

わたしは仏なんかではなく、兄の月臣がいなければ何もできない無力な女だけれど、辛抱できたのは、三日までだった。


何も変わる兆しがない。何も言わなければ、このまま永遠にこのお屋敷にいなければならないかもしれない。

それは、知らない者達に攫われるのと、結果として、何が違っているだろうか。



三日目の朝、すきにお屋敷で過ごしてもいいよ、と芹から許可を得たので、お屋敷をひとりで自由に調べることにした。


鍵のかかった部屋がいくつかあった。


書斎に再び足を踏み入れて、本を一冊一冊くまなく確認する。奥の本棚は、ほとんど寄贈の本だった。

いちばん最後の頁に押されている蔵書印。


それから、家具や小物類も確認した。客間とは別の部屋の隅に積まれた座布団、欄間、急須、それらの模様。

芹のいない間に、恐る恐る開けた小棚の、引き出しに入っていた空の封筒。その宛名。