───同日、十九時三〇分。




閑静な住宅街を抜けて、昼間でさえあまり陽のあたらない裏通りの突き当りに、鳥篭の事務所はあった。



Vernal Aviary(春の鳥檻)

彼らの事務所をそう名づけたのは、一体、何時の何方だったか。



一見すると、三階建ての普通のビルだが、そこには誰も興味本位で入ったりはしない。

そもそも、そこにたどりつくことを許されている者は、一握りである。


ただし、条件は一つ。

──「コード」を有していること。

それだけだった。




今、そのビルの三階、一番端の窓だけに明かりが灯っている。

そこからは、白い光とともに、春とは思えないほどの殺気立った空気が放たれていた。



薄暗い事務所のフロントでは複数の男が立ち話をしていた。

重要な役職をもたない。しかし、何かしらの才によってコードを持つことを許されたありふれた“鳥”たちである。



「天清さんに会ったか?」

「いや、会ってねえ、会えるわけねえだろ。今だったら目合わせるだけで、殺されるんじゃねえか」

「ついさっき、あの能海さんでさえ、半分死にかけてるような顔で出てきたぞ」

「まじか。槐に業務報告が妥当だな。もともとあの人は槐からの左遷だ。左遷先でやらかしたら、終わりだろ」

「間違いなく、首切られるだろうな。籠の上に切られんだから、終わりだな」

「でも、あの人、護衛よりかは護送担当だろ。現時点で一番やばいのは、千楽なんじゃねえか」

「間違いねえな。どうする、千楽が首から下しかねえ状態で上から戻ってきたら」

「あり得るんじゃねえか」



───「まったく笑えねえ冗談だな」


上から、ひとりの男が降りてくる。

その瞬間、鳥たちの喧しい鳴き声はピタリと止んだ。