自分が口にした言葉が面白いのか、義妹はくすくすと笑い続ける。
 そんなことが、年に4度。季節が変わるたびに繰り返された3年間。
 ……やっと、終わる。
 学園を卒業してしまえば、私は……。
ふわふわのドレスを身にまとった義妹とともに学園へ向かう。

馬車で学園へ向かうのは、これが2度目だ。
「今日ばかりは早く学園へ向かわなかったのですわね?」
義妹……マリアーナの言葉に小さくうなづく。
「図書室も研究室も今日はしまってるので」
「ねぇ、お義姉様、毎日毎日何時間も早く家を出て、何時間も遅く家に帰ってくる。そのため馬車が1台しかないから、お義姉様は歩いて学園へ通っていらっしゃったでしょう?」
 義妹の言う通りだ。
 本を読みたくて。研究がしたくて。
 朝早くに学園へ行き、授業が終わった後も暗くなる前まで残っていた。
「お義姉様が勝手にそうしているのに、一人だけ馬車に乗せない意地悪な義妹だって私がどれだけ陰口を言われていたか知ってますか?私を悪者にするためにわざと馬車に乗らずに歩いて学園へ通っていたのでしょう?」
 え?
「違うわ、私は……馬車が1台しかなくて……何度も往復してもらうのも申し訳ないから……」
 朝早くは、馬の世話をして馬車を磨いてと忙しい。もし、学園へ2時間も前に行って欲しいなんて言えば、年老いた御者は日の出前から準備しなければならなくなってしまう。
 帰りも何時になるのか分からないのに毎日何時間も待っていてなんてとても頼めない。
 マリアーナが顔をゆがませる。
「そうよね。お義姉様の都合よね。だけど皆はそんなの知らないのだもの。私が意地悪な義妹だと言われて何度辛い思いをしたか……」
 私は、御者のために良かれと思って……。
 でも、それは自己満足だったというの?
 義妹に辛い思いをさせてしまっていたことに気が付かなかった。
 ……確かに、見ようによっては馬車に乗せてもらえず仕方なく歩いて学園へ通っているように見えなくはなかったのだろう。
 学園で本を読んで研究をしたいという自分の欲を満たすために……誰かが犠牲になっていたなんて少しも考えたこと等なかった。
「ごめんなさい……もっと早くに知っていれば……」
 マリアーナがふっと口の端をあげて笑った。