「35.9」

「もう平熱だね~。僕も、36.3。全然平気ー」

 次の日、私たち三人はリビングで順番に体温を計っていた。
 昨日、ギリギリで吐くのを耐えたサキトくんの熱は下がり、二日酔いの様子もないコウヤくんも元気だ。
 でも、私は体温計を見て硬直していた。

「37.5度だねぇ」

「ホントに、人に移すと治るんだな」

 双子が私の体温計をのぞき込んで、口々に言う。

「ごめんね……僕が寝ちゃったばっかりに、兄さんの看病することになっちゃったから」

 酔っぱらったコウヤくんに、昨日の記憶があるのかどうかはわからない。
 首筋のキスマークも、今日は衿の高い服を着て誤魔化していた。

「7.5ぐらい、熱のうちに入らないよ。平気平気」

 実際に、体温を計るまで自分に熱があるなんて思ってなかった。

「ダメダメ! 今日は一日寝といてね」

「パジャマに着替えて寝てろよ」

 コウヤくんは心配そうに眉をハの字にしているけれど、いつも通りマスクを付けたサキトくんは目が笑っていた。たぶん、サキトくんは高熱があっても昨日のことはしっかり覚えているんだと思う。パジャマなんかに着替えたら、絶対にキスマークが見えてしまう。

「大丈夫! 本当に、大丈夫だから!」

 服の襟を引っ張ろうとするサキトくんから首を守りながら、言い募る。でも、双子は許してくれない。

「ちゃんと、責任取って看病してやるから」

「僕たちに、ぜーんぶ任せといてね」

 笑顔の双子が、私には怖ろしい。
 ボディーガードだって言うけれど、一番危険なオオカミが二匹も家の中にいるとしか思えなかった。
 甘くて苦い日常に、私の熱は上がりそうだった。





「双子の熱 私の微熱」完