猫宮社長らしき猫は、豪奢な張り地のソファに香箱座りをしていた。
 龍子の問いかけに、表情を愛らしく動かすこともなければ、「にゃあ」の一声もなく鬱陶しそうに目を細めて見返してくる。

(この威厳、間違いなく社長ですね~!)

 ふてぶてしさ満載のザ・お猫様の態度に、龍子はにへら~っと笑ってしまった。
 猫かくあるべし。

「おはようございます、社長! ご機嫌斜めの様子ですが、もしかして猫チャンになってしまったのがご不満でいらっしゃいますか! いやいや普段の百倍お可愛らしいのに、もったいないですね~。もう少しこう、ほんのちょっとだけ愛想を振る舞ってくださったら全人類ひれ伏すの確定だと思うんですけど! だがしかし、そのいけずな感じが良い」

 うんうん、としたり顔でまくしたてる。
 三毛猫は、ぴくりともせずに龍子を嫌そうな顔で見ていたが、やがて興味を失ったとばかりに耳まで裂けんとする大あくびをした。
 それを見て、龍子は両手を胸の前で組み合わせる。

「社長、昨日から思っていたんですけど、猫仕草完ッ璧ですよね。いつか猫化とやらが引き返しつかないところまでいっても、社長なら猫界でも十分君臨できると思います。ぶさかわ系アイドル猫として。あ、これ、褒め言葉ですよ? 子猫の可愛らしさもふわふわ猫のなんだか得体の知れない毛玉っぽさもない純三毛猫で表情がそれだけ『無』だと、猫界では美人猫には分類されないと思うんです。でも、ぶさかわにも需要ありまくりますんで!」

 最終的に拳を握りしめてエールを送ったところで、背後に風を感じた。

「黙って聞いていれば、ずいぶん好き勝手言ってくれるな。誰がぶさかわだ。それはブサイクカワイイの意味で間違いないか?」

 ごく近いところで腰砕けの美声でどやしつかされ、龍子は完全に石化する。
 何をどう誤魔化そうかの算段をしたが、何も思いつかないまま、そーっと振り返った。
 そこには、白皙の美貌を極限まで氷結させて周囲の温度まで下げまくっている、長身のスーツ美青年が立っていた。