三毛猫は、落ち込んでいるように見えた。
 しかし、立ち直りは早かった。

「犬島、今日の予定を確認する。出社が必要な案件は後日にまわせるだけまわせ。接待や会食はなかったはずだな。会議は……」
「今日は良くても、先延ばしにした案件は必ず巡ってきます。仕事はある程度リモートにできても、会食は『その場にいることが大事』なので人任せにはできません。第一、戻れなくてどうするんですか? その姿でにゃーにゃー鳴いて口説いて、猫との間に跡継ぎをもうけるんですか?」

 ぶふ、と龍子はふきだしてしまった。
 二人から同時に視線を向けられ、口元をおさえたまま「すみません、すみません」と平謝りをする。

「あの、大変深刻な話をしているのはわかっているつもりなんですけど、想像したら面白くなってきちゃって。秘書に指示を出す猫っていうのも、絵面がかわいすぎて」
「貴様」
「すみません」

 テーブル上、龍子が手を伸ばせば触れられる位置にとどまったまま、猫宮が険しい顔で見上げてくる。
 それは、龍子としてはドストライクのぶさかわ顔であったが、口に出して伝えてしまえば無事では済まないのは明らかなので、耐えた。
 にらみ合うふたりをよそに、犬島が軽やかな声で提案してきた。

「接触の濃度を変えてみるのもいいかもしれませんね。触れる程度で効かないなら、いっそキスでもして頂いて。呪いを解く定番の」