橋本家、二階ここなの部屋。
 ベッドがある。ピンクのシーツ、ピンクの枕。勉強机がある。本棚がある。窓があった。窓にはカーテンがかかっている。
 ここなは、ベッドに座っている。その前にフェレスが立っている。
 「うわあ。お父さんもお母さんもフェレスさんのこと前から知ってるみたいだった」
 と、ここな。
 「な」
 と、フェレス。
 「・・・・・・」
 「で、木村君とやらが君は好きなのか」
 「うーん」
 と、ここなは考え込んだ。
 「よくわからん」
 と、ここな。
 「そうか」
 「明日学校で会うと思う」
 「そうか」
 「はあ」
 と、ここなはため息をついた。
 「恋とかよくわからん」
 と、ここなはいった。
 「俺もよくわからん」
 と、フェレス。
 「そうなんだ」
 ここなは考えた。
 「フェレスさんは恋したことある?」
 「もちろん」
 「ええええええええええええええええええ」
 「今日だ」
 「ええええええええええええええええ」
 (ひょっとして、私のことじゃあ)と、ここなは、思った。
 「一目ぼれだ」
 「えええええええええええええええええ」
 (まじかよ。いきなり現れた魔法使いに恋されたよ)と、ここな。
 (うわあ。この流れだと、フェレスさんが私に告白して、初恋を教えるなんて展開になっちゃうよ)
 (どうしよう)
 ここなは、どきどきした。
 フェレスは目をつむっていた。
 (どうしよう)
 (告白されちゃうよ)
 (ことわっちゃおうかなあ)
 (木村君は恋かどうかわからんし)
 (どうしたらいいんだ)
 ここなは、焦った。
 「あんな素敵なものに初めて会った」
 と、フェレス。
 (ええええええええええええええええええ)
 (まじでえ)
 (うわあ。私、惚れられちゃったよ)
 「ああ、また会いたい」
 「え」
 「また会いたいなあ」
 「え、会ってるじゃん」
 「え」
 「だから、会ってるじゃん」
 「え、今、ここにあるのか」
 「あるのかって、そんな言い方」
 「そうか。ここにおられるのか、だな」
 「それはそれで、言いすぎだけど」
 「で、あれはどこだ」
 「あ、いや、フェレスさん、あれって」
 「あれだよ、あれ」
 「いや、だからそんな言い方は」
 「あ、そうかあの方か」
 「それはそれで、言い過ぎのような」
 「で、ハンバーガーとやらは?」
 「え」
 「今おられるんだろう。ハンバーガー様が」
 「ええええええええええええええええええええ」
 「で、どこなんだ、ハンバーガー様は?」
 「え、恋したっていうのは?」
 「うん。ハンバーガー様だ」
 「ええええええええええええええええええ」
 「どこだ」
 「あ、あのう」
 「どこだ、ハンバーガー様は、あるんだろう」
 「あのう。怒らないでほしんだけどお、実は、ハンバーガーないの」
 「え」
 「いや、だからハンバーガーないの」
 「えええええええええええええええええ」
 「あ、ごめん」
 と、ここなは手を合わせた。
 「嘘つく気はなかったんだ。ただ、恋したとかいうから、そのお」
 「あは。そういうわけか」
 「え」
 「俺様が君に恋したと思ったのか」
 ここなは赤くなった。
 「ははははははははははははは」
 フェレスは笑った。ここなはむっとした。
 「あ、わりい、わりい」
 と、フェレスは片手を後頭部にやった。
 「そんなにハンバーガーが好きなら、夕食に頼んであげるよ」
 「ほんとか」
 フェレスは大声を出した。
 「うん」