橋本家二階、廊下。
 魔法使いフェレスと、ここなが立っている。
 「はあ、あなたは本当に魔法使いなんですね」
 と、ここな。
 「やっとわかってくれたか。俺様は魔法使いフェレス」
 「魔法使いフェレス」
 「そうさ、そなたの願いをなんでもかなえようぞ」
 「えええええええええええええええ」
 ここなは、考え込んだ。
 「うーん、なんにしようかなあ」
 フェレスは立っている。
 「うーん、お金持ちにしてもらおうかな、あ、いや、宇宙一の美少女に、あ、それは間に合ってるか。かわいいお洋服頼もうかなあ。あ、いや世界一周とか、うーん」
 ここなは考え込んだ。
 「モデルになりたいとか、あ、いやそれは実力でなれるしなあ。勉強ができるようになりますように、うーん、でも努力しなきゃなんないしい、ユーチューバーになれますようにとかあ、うーん、それもなれるかあ。逆上がりができますようには、うーん、跳び箱飛べますようにとか、うーん、いまいち・・・・・・・」
 ここなは考え込んだ。
 「空を自由に飛びたいとか、うーん、それはちょっと怖い、・成績が上がりますように、それも努力しなきゃいけないしい・・・・・」
 「いい加減にしろよ、いつまで悩んでんだ」
 と、フェレス。
 「えーと、初恋がしたいでえす」
 と、ここな。
 「え」
 「だから、初恋がしたいんですけどお」
 「ええええええええええ。さんざん考えこんだ末がそれかよお」
 ここなは怒った。
 「何よ、それ。年頃の乙女にとっちゃあ、大問題!」
 「あ、わりい、わりい」
 「実はクラスに気になる男の子がいてえ」
 「ああ」
 「木村君っていうんだけどお」
 「ふむ」
 「気になるって程度だから恋ってわけじゃないんだけどお」
 「うん」
 「恋してみたいっていうかあ」
 「ほお」
 「うーん、だからあ、恋に恋してるっていうかあ、なんていうかあ」
 「恋愛相談にのってくれっていうのが、君の願いか」
 「そうじゃなくてえ、そうじゃなくてえ」
 「違うのか」
 「あ、いやだからあ、ここなはまだ小学生だから、恋とかわからないっていうかあ」
 「うーん、恋をわからせてくれっていうのが願いか」
 「そうじゃなくてえ、そうじゃなくてえ。初恋のやり方教えてほしいっていうかあ」
 「初恋のやり方を教えればいいんだな」
 「そうじゃなくてえ、そうじゃなくてえ、・・・・・・」
 「あ、いやだからどうしたらいいんだ」
 「あ、いやだからあ」
 「はあ」
 フェレスはため息をついた。
 「わーった。じゃあ、君の願いが叶うまで、つきそってやろう」
 「え」
 「いや、だから、君の願いが叶うまで君といてやろうと・・・・・・」
 「わああああああ。ストーカー、ストーカーあ、ストーカーああああああ」
 「そうじゃなくてえ、そうじゃなくてえ」
 「ストーカー、ストーカー、私につきまとうってこと?」
 「あ、いやだから、そうじゃなくてえ、そうじゃなくてえ」
 「ストーカー、ストーカーあ」
 「はあ」
 フェレスはため息をついた。
 「そのリング」
 と、フェレス。
 「え」
 「その君がはめているリング」
 ここなは、指にはめられたリングを見た。
 「そのリングをはめれば、俺様が現れる、外せば、俺様は消える」
 ここなは、人差し指にはめられたリングをじっと見た。ここなは、リングをはずした。突然煙があがった。フェレスは消え去った。ここなは呆然とした。
 「いない。魔法使い、いない」
 ここなは、再び、リングをはめた。煙があがった。フェレスが姿を現した。
 「お呼びでございますか、ご主人様」
 と、フェレス。
 「わあ、本当だ。なんかとっても便利い」
 ここなは、またリングをはずした。煙がのぼった。フェレスは消えた。ここなはリングをはめた。煙が立ち上り、フェレスが現れた。
 「お呼びでございますか、ご主人様」
 と、フェレス。ここなは、またリングをはずした。煙が立ち上り、フェレスは消えた。ここなは、またリングをはめた。煙が立ち上り、フェレスが現れた。
 「お呼びで・・・・・・、いい加減にしろ、遊ぶなよ」
 「ははは」
 と、ここなは、笑った。
 「でも、あんたを呼び出したら、周りの人間がびっくりするんじゃない?」
 と、ここな。
 「あんたって、なんだよ。俺様は君より年上なんだぞ」
 「あ、そうか。魔法使いだから、きっと何百年も生きてるんだ」
 「俺様は16だ」
 「えええええええええええええ」
 「俺様が現れた時、周りの人間がびっくりするんじゃないか、ということだが・・・・・・」
 「あ、年の件はもういいんだ」
 「安心しろ。マインドコントロールで周りの人間は俺様が現れても、違和感を感じない」
 「ま、マインドコントロール?」
 「うーん、一種の催眠術みたいなものさ」
 「うーん、よくわからんが、あんた、じゃなかった、あなたが出てきても周りの人間はびっくりしないんだ」
 「その通り」
 と、フェレス。
 「ん、どうやら、君の両親が帰ってきたようだ」
 「え」
 自動車の音がした。しばらくすると、ドアのかぎが開く音がした。がちゃ、ドアが開く。
 「ここなあ」
 と、ここなの母のかこの声がした。
 「ためしに一緒に行ってみよう」
 と、フェレス。
 「うん」