漢字(かんじ) ここなは、目覚まし時計を持っている。目覚まし時計は「ぴぴぴ、ぴぴぴ」と音を立て始めた。
 「わあ、付喪神さん、早く起きてくれないかなあ」
 と、木村君。
 「そ、そうだね」
 と、ここな。ぴぴぴ、ぴぴぴ、目覚まし時計は鳴り続ける。ピアノには異変はなかった。
 「おいおい、なんもおこんねえぞ」
 と、聖也。
 「付喪神なんて非科学的だよ。風評被害さ」
 と、氷河。
 「そんなことない。付喪神はいるよ」
 と、みな。
 「だいたいそんなもんいたら、古い道具はみんな付喪神になってるし、あの目覚まし時計だって、付喪神になるって話さ。付喪神を起こす目覚まし時計が付喪神ってさあ」
 と、氷河。
 「ひどい、それ、ロジカルハラスメントだ」
 と、ここは。
 「何い」
 と、氷河。
 「ま、まあ、まあ」
 「なんも起こらないね。付喪神さん、どうしたんだろう」
 と、木村君。
 「え」
 ここなは焦った。フェレスを見た。フェレスはうなずいた。え、どうゆうこと?ここなはどきどきした。ピアノはならないし、どうゆうこと?
 「ばかばかしい」
 と、氷河。
 「もう次行こうぜ」
 と、聖也。
 「そうですよねえ。聖也さん」
 と、氷河。
 (どうなってんのよ。早くピアノなってよ)ここなは焦っていた。手に汗がにじみ出る。
 「おかしいなあ。まだ何も起きない」
 と、木村君。と、そのとき、ピアノのふたが開いた。
 「あああああああああああ、ピアノのふたが勝手にあいたあああああ」
 と、木村君。
 「えええええええええええええ」
 と、ここなはびっくりした。どきどきした。
 「二人とも、そこ離れて。危ないから」
 と、祥子。
 「あ、はい」
 と、ここなはいった。ここなは後ろへ下がった。木村君は動かなかった。
 「木村君、後ろ下がろうよ。危ないよ」
 と、ここな。
 「う、うん」
 と、木村君。木村君は下がった。
 するとピアノがひとりでになりだした。
 「やったあ。付喪神が起きだしたんだ」
 と、木村君が大声でいった。ここなはにっこり笑った。
 「よかったね。木村君」
 と、ここなはいった。
 「うん」
 「ベートーベンの「エリーゼのために」か」
 と、祥子。
 「トリックだあ」
 と、氷河。
 「トリック使ってるに違いない」
 と、氷河。
 「聖也さん、確かめに行こう」
 と、氷河。
 「おお」
 と、聖也はいって、氷河とピアノに近づいた。
 「あ、こら、危ないからやめなさい」
 と、祥子。
 氷河と聖也は祥子のいうことをきかず、ピアノの周りを見回しだした。そのとき、がーんと、ピアノの音が鳴った。
 「あ、ピアノさんが怒ったぞ」
 と、木村君。
 「ば、バカな」
 と、氷河。
 「ああ」
 と、聖也。
 「だいたい、そんな目覚まし時計で付喪神が起きるなら、その目覚まし時計も付喪神になってるよなあ」
 と、氷河はここなの目覚まし時計をさした。
 「あ、またロジハラ」
 と、みな。
 「違うよ。付喪神ってのは、古い道具に宿る精霊なんだろう。その時計はそんなに古くないのかも」
 と、祥子。
 「そうそう」
 と、ここな。
 「いや。その目覚まし時計は古い」
 と、フェレス。
 「え」
 と、ここな。
 「じゃ、じゃあなんで」
 と、氷河。
 「言われなくとも、その時計は付喪神さ」
 と、フェレス。
 「ええええええええええええええええ」
 と、木村君。
 すると、ここなの持っている付喪神目覚まし時計が宙に浮いた。ここなは驚いた。
 「わあああああああ、目覚まし時計が宙に浮いたああああああ」
 と、木村君。
 「トリックだあ」
 と、氷河。
 「トリックとはなんだ。坊や」
 と、目覚まし時計はいった。
 「ま、ま覚まし時計がしゃべった」
 と、木村君。
 (木村君ってすごいピュア)と、ここなは思った。
 「お初にお目にかかります。皆さま。(わたくし)付喪神目覚まし時計の付喪神、愛と申します」
 と、目覚まし時計はいった。
 「へえ、愛さんっていうのかあ」
 と、木村君。
 聖也と、氷河は呆然としている。
 「ここな、付喪神目覚まし時計のスリープのスイッチを入れるんだ」
 と、フェレス。
 「え」
 と、ここな。
 「お嬢さま。(わたくし)の裏を見てください」
 と、目覚まし時計はいって、ここなの手の上に乗った。ここなは、目覚まし時計の裏を見た。
 「お嬢さま。「スリープ」とあるスイッチです」
 と、目覚まし時計はいった。
 「これか」
 と、ここなはいって、スリープと表示のあるスイッチを入れた。すると目覚まし時計から子守歌が流れた。ピアノのふたがしまった。
 「あ、ピアノのふたがしまった」
 と、木村君。
 「これで、付喪神は眠りについた」
 と、フェレス。ポンと、目覚まし時計が消えた。
 「あ、目覚まし時計が消えたああああああ」
 と、木村君。
 「うーん。霊気はピアノに宿った精霊から出ていたのか」
 と、みな。
 「うん」
 と、祥子。
 「うわあ。楽しかった」
 と、木村君。
 「うん」
 と、ここな。
 「いまだに信じられないぜ」
 と、聖也。
 「はい」
 と、氷河。
 「じゃあ、次行こう」
 と、祥子。
 「うん。次は美術室」
 と、木村君。
 「うん」
 と、祥子。