鐘の音が、運命の人だって教えてくれた。

 …………。

 いやいや、さすがに早いよね?

 あのときは、泣いているわたしを心配して、してくれただけであって。
 
 まだサッカー部の人たちだって残っているかもだし、先輩も、誰かに見られたら恥ずかしいだろうし……。


 和樹先輩の少しうしろを歩きながら、それでも先輩のあいた左手をじっと見つめてしまう。


「どうした?」

 和樹先輩が、立ち止まってわたしの方を振り返る。

「い、いえっ……別に、なにも……」


 言えないよ。

『あのときみたいに、手をつないでください』……だなんて。


 顔をうつむかせるわたしに、和樹先輩が小さくため息を吐く。


「……だったら、早く来い」

 和樹先輩の声にそっと顔を上げると、進行方向を向いた先輩が、左手をわたしに向かってヒラヒラさせていた。

 まるで、わたしを呼んでいるみたいに……。


「はいっ!」

 和樹先輩に駆け寄ってそっと先輩の手に触れると、先輩はぎゅっとわたしの手を握り返してくれた。



(了)