鐘の音が、運命の人だって教えてくれた。

 わたしがじーっと見つめていると、「そんなに見るな」と言って顔をそむけられてしまった。


 テレた顔がかわいい、なんて言ったら、絶対に怒られるだろうな。


「あー……、そうだ、汐見。その……間違ってたらアレなんだが、ひょっとして汐見……」

 そこまで言って、岩瀬先輩が口ごもる。


 ひょっとして——なに?

『俺のことが好きなのか?』なんて言われたら、どう答えたらいいの?

 もちろん、岩瀬先輩のことは…………好き。

 でも、あの男の子の横顔が頭の中にチラついて、全然消えてくれないんだ。


 サラサラの黒髪に、意志の強そうな瞳…………。

 ……って、あれっ?

 ひょっとして、誰かに似てる……?


 いやいや、さすがにそんな偶然、あるわけないってば。


 突然生まれた疑惑を打ち消すように、首を左右にぶんぶん振る。


 でも、もし今わたしが『はい』なんて答えたら、岩瀬先輩はどんな顔をするだろう?

 困った顔? 苦い顔?

『ごめん。他に好きな人がいるから、汐見の気持ちには答えられない』なんて言われちゃうかもしれない。

 そうしたら、きっともうこうやって岩瀬先輩のことを応援することもできなくなっちゃう。


 イヤだよ。

 せめて、なにも知らずに岩瀬先輩の応援がしたい。し続けたい。