屋上に人の姿はなかった。
視界いっぱいに広がるのは、4月だと実感させられる桜と、柔らかく暖かな風。
私と奥森くんは、横長のベンチに腰をおろして、お昼をそれぞれ食べ始める。
私はお弁当だけれど、奥森くんは購買で買ったらしきクルミパンを口に運んで、モグモグさせていた。
そういえば、奥森くんとは中学が一緒だったけれど、話ししたり、一緒にお昼食べるなんてことは無かった。
ようやく、私は卵焼きを箸で挟もうとした時。
奥森くんがどうしてか、私のお弁当箱を支える、左手に触れてきた。
私は思わず、ドキリとして奥森くんの方を見る。
「……ごめん、佳乃愛さん」
「……へ?」
私は意味が分からず、間抜けな返事をしてしまう。
「中学の時、男子から佳乃愛さんを守れなくて……、ごめん」
申し訳なさそうに、眉をハの字にする奥森くん。
「ど、どうして謝るのっ……、奥森くんは悪くないよっ……!?」