「おはよう、桜崎さんたち」
私と華乃音の後ろに立っていたのは、クラスメイトの奥森春斗《オクモリ ハルト》くん。
スラッとした体形に、ピンクめいた茶髪の地毛。
前髪は、目がかくれるくらい長い。
性格は大人しくて、女子からけっこう人気があるイケメン男子だ。
先に「おはよう」と愛くるしい笑顔で返事したのは、妹の華乃音。
一方、私は無言で顔を逸らす。
実は、私は中学の頃、男子で怖い思いをしたことがあり、それ以来、男の子がどうにも苦手。
克服しなきゃとは、頭では分かっているけれど、体が拒否反応をおこしてしまう。
「わ、私、先に行ってるね!」
一刻も早く、その場から立ち去りたいーー、と思ったのに。
ガシ、と腕を奥森くんにつかまれて。
「待って……!」
「へ!? な……、なに!?」
私はびっくりして思わず振り向く。
奥森くんから私に声をかけるなんて初めてだったからだ。

