放課後の片想い


「ひ…より……」


少し掠れた声だけど、ハッキリと聞こえた。



私はバッと鈴原くんから離れた。




ドクンッ


「何してんの?」




足立くん!!!


「あっ…」

これ以上声が出ない。




「見ての通りイチャついてたんやけど」


鈴原くん!!





グイッ


鈴原くんの腕を引っ張る足立くん。

「離れろ」


今まで見た事ないぐらい冷たい表情。









「行くよ、日和」


足立くんは私の手を引っ張ってどこかへ向かう。



「足立くん!」



何も返事をしてくれない。




振り返るとじっとこっちを見ている鈴原くんがいた。


鈴原くんにも何も言えていない。






しばらくしてたどり着いたのは足立くんのマンションの前。


「足立くん!」


そのまま家までやってきてしまった。


家に入り、足立くんは靴を脱ぐ。
私は玄関から動けない。


こっちに振り返る。




ドクンッ

今までに見た事ないぐらい悲しそうな顔。



あぁ、私がこんな悲しい顔をさせてしまってるんだ。



「ごめんなさい…」


私なんかと一緒にいてもらってるばかりに…

私が優柔不断でいい加減なばかりに…



【周りの大切な人たちをもっと傷つけてしまうわよ】

お母さんの言葉が頭をよぎる。


そうか、お母さんが言っていたのはこういう事なんだ。



「足立くん、本当にごめんなさい…」



「日和はさ…どうしたいの?」


やっと足立くんの声が聞けた。



「なんで謝ってるの?」


「それは…」



「俺がさ…電話で悠に良いって言ったしさ…だけどやっぱり無理って思って探しに行ったら……」


私は足立くんの笑顔が大好き。

なのに、その笑顔を私が奪っている。


こんな最低な事をして、たくさん傷つけて。




「ごめん…もうわかんねぇわ……」


ドクンドクンッーー……


「日和は誰が好きなの?」



手が震える。



「あ…私は……あだ…」


「日和ごめん、帰ってもらっていい?」



背を向けて、部屋の方へ向かう足立くん。



「連れてきてのにごめんだけど帰って」



あぁ。



「送れなくてごめん」


そしてリビングに入っていった。



私はどうやってマンションを出たんだろう。



不思議とね、涙も出ないんだ。



どうやって帰ったのか、何も覚えてない。


でも、気づけば自分の部屋にいた。




「日和〜夜ご飯よー」


「ごめん…お腹痛くて……」


なんとか出た声でお母さんに嘘をつく。




おかしいな、涙が出ない。


部屋から一歩も動けないの。



足立くんの表情が頭から離れない。




———————————


気づけば朝。
私、お風呂も入らず制服のままベッドにうなだれていた。

一睡も出来ていない。



なんとか体をお越し、お風呂へ向かう。


「日和、おはよう。お腹は大丈夫?朝ごはん食べれる?」


「おはよう。まだちょっと調子悪いからいいや」


食欲なんてない。



「行ってきます」


ドアを開ける。


ドアを開けたら「おはよう」って待ってくれている足立くんがいる事を、まだ心のどこかで期待している自分に吐き気がする。

どこまで自分に甘いんだ。



ガチャッ


「おはよ」


「鈴原…くん…」


そこにいたのは鈴原くんだった。



「俺が言うのもあれやけど…あれから大丈夫やったか?」


鈴原くんは何も悪くない。
私が悪いんだ。


「うん、大丈夫だよ」

「そっか…」


鈴原くんの顔が見れない。


「あっ!私忘れ物しちゃった!ごめんね、わざわざ来てもらったのにごめんなんだけど先に行っててね!」


「おいっ!」


鈴原くんと学校には行けない。


私は逃げるように家に戻り、朝礼ギリギリに学校に向かった。



お昼休みはちょうど担任の安田先生から用事を頼まれて、桜ちゃんたちに言い訳が出来た。



そして5限目の体育。



学校に着いてから、足立くん、鈴原くんとは全く喋っていない。



「日和さ、顔色悪くない?大丈夫?」

「ほんと?全然大丈夫だよ」


お昼ご飯も食べてない。

というか、お腹減ってない。



今日は男子も女子も一緒にバドミントン。

なぜ今日に限って一緒……



「日和!私らの番だよ」


桜ちゃんとコートに向かう。




グラッ


あれ…?

今一瞬目の前が歪んで見えた気が…




「日和!そっちいったよ!」

「任せて」


私の方へ飛んできた羽を打ち返そうとした時


「あ…」

またやってきた、目の前の景色が歪む感覚。




バターーンッ!!!!


「きゃーー!!日和!?」


あ…れ……?
桜ちゃんの声……
なんで桜ちゃん、私の名前を何度も叫んでるの…?


だめだ…意識が…


グイッ

誰かに体を持ち上げられた感覚がする。


「俺がつれていく」


あ…この声は……



———————————



「ん…」


「日和!?」


「さく…らちゃん…?」


目を覚ますと保健室で、そばには桜ちゃんがいてくれていた。



「もう!!むっちゃ心配したんやで!!突然倒れるから〜」

「ごめんね心配かけちゃって」