放課後の片想い


「お小遣いで買える範囲なら…あっ!ブランド物は無理だよ…」


私、鈴原くんが欲しい物買えるかな…


「お小遣い、いくら残ってたかな」

そんなひとりごとを言いながら、鞄の中の財布を探す。




「はは!!」


いきなり大きな声で笑いだした鈴原くん。


「あー、やっぱ日和やな。相変わらず。なんか安心したわ」


「…ん??なにが??」

私、そんなおかしな事言ったかな?



「出会った頃と変わらず、可愛い天然さんやね」


そう言って、片手で私の両頬を挟む。
私の頬がむにっとなった。



かっ…可愛い!?


「走ったし笑ったから何か腹減ったわ〜。そこのカフェ付き合ってよ」


頭によぎる足立くん。



「あっあのね…足立くんに連絡していい?」


私から話したいって誘ったのに、すごく失礼な事してしまっている。




「俺だって、日和と話したい」


私のスマホをパッと取り上げて、こんな事を言う。


やっぱり…なんだかいつもの鈴原くんじゃない。

 


いつもより強引で


「俺が彗に今の状況言うわ」


「わっ私が話すよ」


「んじゃ、今電話で話したい事話せばいいやん」


強気で


「それは……」


「今は俺の事だけ考えて」



目を離させてくれない。




ヴーッヴーッ


タイミング良く?私のスマホが鳴った。





「電話かな?鈴原くん、スマホ返して」


鈴原くんはディスプレイをじっと見て、通話を押した。


「ちょっと!?」


誰からの電話!?




「俺やけど」


この話し方は…お母さんじゃないな。


まさか





「なんでお前に言わなあかんの?」


「無理」



足立くん!?


「鈴原くん、代わって!」




鈴原くんは私の方を見て



「ラストチャンスやと思ってるから」


ポツリとそう言った。


ラストチャンス…?




「…あぁ。サンキュ」



わからない。
誰と話してるの?





「はい」

いきなりスマホを渡された。


「まだ繋がってるで」


私はディスプレイを見るより急いで電話を代わった。



「もしもし!!」


「日和?やっと代わってくれたー」


やっぱり足立くん。



「あっあのね、今…」

「うん、悠といるんでしょ?俺の事は気にしなくていいから悠に付き合ってやって」

「でも!」

「気にしてくれてありがとう。それだけで嬉しいから」



だめだよ


「ううん、だめだよ。足立くん、傷つけたくない…」



はっと我にかえる。
言葉にしてしまった。



その瞬間、スマホをまた鈴原くんに取られた。



プチッ

そして切られた電話。




「鈴原くん!?ちょっと…勝手過ぎるよ!!」


さすがに怒りが込み上げてきた。




「俺といる事って彗を傷つける事なんだ?」


「え……」



だって



「足立くん…不安にさせたくないの……」



「なんで不安になるん?」



やっぱり今日の鈴原くんはいつもと違う。


いつもよりすごく



「“友達”と遊んでるだけやのに、不安になるんや?」



ほら


「そ…れは……」


「俺たち“友達”やんな?」



こんな意地悪な事を言う。



意地悪…?

ううん、そうじゃなくて


確信的な事を言う。


私が逃げてるから。




「…“友達”だよ」


だから逃げちゃだめ。

そうわかっているのに



「じゃあ、いいやん」


ほら、結局逃げて甘えてる。



顔を上げる事が出来ない。



「…ほんなら、ちょっとあっちで喋ろ」


そう言われて着いたのは路地を抜けた所にある小さな公園。




ガコンッ

自動販売機で飲み物を買う。



「はい。寒いからホットティーにしたけどいい?」

「あっうん!ありがとう」


私が紅茶を好きなのを覚えてくれていたんだ。




ベンチに座る。


11月末。
外もすっかり冬になってきている。




「はーー…」


隣からため息。


「鈴原くん?」



「最低な事してごめん」

そしていきなりの謝罪。



「むっちゃ自己中やけど、今日ぐらいしかこうしてゆっくり話せへんと思って」


「今日ぐらい?」


「年明けたら入試あるし、また練習の日々やからさ。今日はひとまずコンクール終わったからちょっと中休み的な感じ」


「そっか…」


そうだよね。
まだまだ忙しいよね。



「な?俺って最低で自己中やろ?」


少し困った様な寂しそうな笑顔をする鈴原くん。




「そうなのかな」


「え?」


「さっきまではいきなりの事が多くてビックリしてたけど、こうして話聞けたらそっかって思ったし」


「なんか今日は色んな鈴原くんが見れて嬉しいなって思っちゃってる自分もいるの」


はぁーっと息を吐くと、白い息が出る。

ツンとした寒さ。


だけどなんだか心地良い。