朝。


なんとも言えない少し憂鬱な朝。



あれから足立くんと連絡取ってない。


もちろん、鈴原くんとも。





お母さん、お仕事行っちゃったかな。

静かなリビングを見て、フーッとため息。



時間ないからおにぎりだけ作っていこう。



ふとよぎる、足立くんの顔。

足立くんも食べてくれるかな…。




ガチャッ


「おはよ」


「な…んで…」


「はよせな遅刻すんで」



目の前には足立くんと鈴原くんが。



「あの…えっと……」


ぎゅっ


足立くんが私の手を握る。



「行こ。受験前に遅刻はヤバイよ」

そう言って私の手を引き、走り出す。



「彗、彼氏の特権使うなよ」


「羨ましいんだろ?」


「アホ」


鈴原くんは私の隣を歩く。



えーっっとこの状況は……


足立くんと鈴原くんに挟まれてますが………




「おはよー!!」

「桜ちゃん、おはよう」

「日和朝から話題になってるやん!!モテモテの朝やったみたいで」

「話題!?モテモテ!?」


「悠と足立と3人で登校したんやろ?女子みんな羨ましがってたでー」


えーーー


話題とか…なりたくない……


出てきた、私のネガティブな部分。

何言われてるやら……




チラッと窓際を見ると、一緒にいる2人。


昨日の事…足立くんにちゃんと謝らなきゃ。

そして


鈴原くんにも。




「なぁ前川〜!」

目の前にクラスメイトの男子たちが。


「はっはい…?」

「鈴原と足立とどんな関係なん?」

「えっ…」


いきなりの質問。



「どんなって…」

「朝から噂だしさ!教えてよー」


や、やだなぁ…なんかこの感じ…



「うるさいなぁ、あんたらには関係ないやん」

「成田には聞いてないだろ」



何もないって言わなきゃ。



「あ…あの……!」


「前言ったやんな?俺が日和を好きって」


隣から聞こえてきたのは、鈴原くんの声。


「もっかい説明しよか?わかるまで」


ちょっと…怖い??雰囲気。



「あのさ〜、そもそもなんで俺らに聞かないの?女の子に聞くとかキモくない?」


足立くんまでケンカ腰!!??



「いや、えっと…私が…!!」


「俺はずっと日和が好きやねん。ただそれだけ。他になんか質問ある?」



クラスの女子がキャーッて叫んでいる。



私はただ呆然としている。



足立くんは……なぜか笑ってる!?



「ちょっと悠、抜けがけしないでよ。彼氏は俺だよ?」


その言葉にさらに女子たちは黄色い声で叫ぶ。



私は


ほぼ石になってる。



「あんたら…そのへんにしとき」


桜ちゃんのひと言でなんとかおさまった…気がする。




心臓、もたない。





ポンポンッと頭を撫でてくれる足立くん。


「あのっ…!」

「ん?」

「今日…ちょっと……お話し出来たりしますか?」

「いい話?」

「え?」

「嫌な話なら無理かなぁ〜…って言いたいところだけど。ウソウソ♪後で話そ」


そう言って席に戻っていった足立くん。


今朝も普通だった。


いつも通りの笑顔。



私が無理をさせてる。






放課後。

結局渡せなかったおにぎり。
今更渡しても…だよね……

せめて話だけでもーー



「足立くん、あの…「日和」

私の声を遮る鈴原くんの声。




「今から空いてる?」

「今から?ちょっと今日は…」


私は荷物をまとめている足立くんの方へチラッと目をやった。



「彗と何かあるん?」

「ちょっと話をしたくて…」


少し続く沈黙。



グイッ


「ごめん。でも、やっぱついてきて」


「えっちょっと…!?」



私は鈴原くんに引っ張られ、教室を後にした。



靴箱で手が解けた。



「はぁはぁ…鈴原くん、どうしたの!?」


急に走ったから、息が切れる。




「早く履き替えて」

「え!?」

「早く」



なに…

この……


わがままぶりは〜〜〜!!??



桜ちゃんが鈴原くんをSって言っていた意味がわかってきたかもしれない。




しばらく走って気づけば駅前まで来ていた。


バシッ!!


今度は無理矢理手を解いた。



「意味わかんないよ鈴原くん!!」


「…ご褒美、ちょうだいよ」


「ご、ご褒美…?」


「コンクール…頑張ったご褒美」



え??

鈴原くんが言ってるんだよね…?


あまりにらしくない発言で、呆然としてしまう。



「日和??意識ある??」



「ふふ…」

「??」


「鈴原くんでも、そんな可愛い事言うんだね!」


私は笑ってた。
さっきまでのちょっと怒っていたような感情が、あっという間に消えてしまった。



「は!?バカにすんなよ」

「バカにしてないよー」


また違った鈴原くんを見れた。



ふり解いたはずの腕をもう一度掴まれる。



「それで?くれるの?ご褒美」


ドクンッ


さっきまでの雰囲気はどこへやら。

鈴原くんから目がそらせない。