「鈴原くん、帰れる?フラついたりない?」
「大丈夫やで、ありがとう」
玄関の外でお見送り。
「家まで送るよ」
「ほんなら俺が日和を送るから、またここに戻ってくるで」
あははと2人で笑う。
「今日はほんまにありがとう。じゃあな」
「うん。バイバイ」
行っちゃう。
「鈴原くん!!」
夜分遅いと言うのに、近所迷惑並みに叫んでしまった。
「本選、聴きに行ってもいい?」
鈴原くんはニコッと笑って
「もちろん」
と言った。
この日、寝る前に足立くんと連絡を取って鈴原くんが家に来た事を伝えた。
ちゃんと言っておきたいし。
足立くんはそっかーとだけ言って、鈴原くんの心配はしていたけど特に多くは聞いてこなかった。
私は何故そこに違和感を持たなかったんだろう。
———————————————
あっという間に10月は過ぎていって、気づけば11月のはじめ。
空気も冷たくなってきた。
足立くんと付き合ってもうすぐ3ヶ月になる。
ケンカは一度もない。
「日和、髪伸びたねー」
「受験受かるまでは伸ばそうかなと思って」
「ふーん」
私の髪に触れる足立くんの指。
放課後の教室。
誰もいない。
「日和、勉強偉いね」
「偉くはないですよ。ただ、塾行ってない分しっかりやらないと」
「塾は行かんでよかったん?」
「んー…私足立くんたちとこうしていれるまで勉強が友達みたいな所あったので…だから唯一の取り柄というか…」
自分で言ってて少し恥ずかしくなる。
「すごい事じゃん」
「え…」
「今までの積み重ねが今の日和だよね?コツコツ続けるってほんとに簡単に出来る事じゃないと思うから、俺は尊敬するよ」
足立くん…
嬉しくて、なんだか泣きそう。
「日和も悠も、俺はマジ尊敬してる」
「そうですね、鈴原くんはほんとにすごいね」
この前、家で話を聞いてからよりすごいなぁと感じるようになった。
「俺は悠には敵わないかな」
「足立くん?」
「ごめん…!忘れて」
不安気な表情。
私がこんな表情をさせてしまってるんだ。
「この前鈴原くんに足立くんと付き合ってるって言いました」
「え…そうなの?」
「うん。ちゃんと自分の口から言いたかったので」
私は足立くんの笑顔を奪ってしまってるんだろうか。
「遅くなってごめんなさい」
足立くんに伝える事も、鈴原くんに伝える事も。
「あー、ヤバイ」
足立くんが自分の髪をクシャッとした。
「すげー嬉しい。ありがとう、言ってくれて」
「なんで足立くんがお礼言うの!?」
「嬉しかったから。それに今みたいに早く敬語もなくなって♪」
足立くんが笑ってくれた。
すごく嬉しい。
ぎゅっ
私は足立くんの手を握った。
「大好きです、足立くん」
フイッと顔を晒した足立くん。
「う…わ。。反則」
「日和…キス…させて?」
「うん…」
放課後、冷たい風が入ってくる教室で私たちはキスをした。



