「こんな話、いきなりごめんな」
「いえ、聞けて嬉しかったです」
足立くんを少し知れた気がする。
「ねぇ、足立くん」
「ん?」
「嬉しいや寂しいとか、気持ちは言葉にしていいんですよ?」
足立くんはそういう言葉を飲み込んじゃう癖があると思う。
「口に出すと嬉しい事はもっと嬉しくなるし、寂しさは半減します」
なんという、説得力のない言葉だろう。
だけど、なんとか伝えたかった。
「…日和が聞いてくれる?」
私の頬に足立くんの手が触れる。
パッと跳ね除ける事が出来ない。
「はい。聞きます」
むにっと頬をつねられた。
「いっいひゃい!!」
「帰ろ!おばさんのカレー食いたい!」
今まで見た事ないぐらいの笑顔で笑う足立くん。
私の鼓動がおかしい。
これはどういう気持ちなの?
「あっ、お母さんから買い物頼まれたんだった」
「まじか。スーパー寄ってくか」
今はこの気持ちの正体がまだわからない。
———————
「まぁ!!美味しそうね!」
「足立くんが買ってくれたんだよ。お母さん好きそうだなって」
「いつもご馳走になってばかりですみません」
「そんな事気にしないで!1人分なんて何も変わらないんだから。でも、ありがとうね。次からは気を遣わないでね」
「ありがとうございます」
足立くんは駅前にあるケーキ屋さんで美味しそうなケーキをいくつか買ってくれた。
「ほんとに…気を遣わせちゃってたらごめんなさい」
「なんで日和が謝るん?俺が買いたかっただけだよ」
ほら。
足立くんは必ずこういう風に言ってくれる。
我慢や無理をさせてないか、心配になる。
3人で食べるご飯が結構当たり前になってきたこの頃。
ピンポーン—・・・
「宅配とかかな?私出るね」
少し急いだからか、インターホンの画面は見ずにドアを開けた。
ガチャッ
「え……」
「いきなりごめん」
どうして……
「鈴原くん!こんな時間にどうしたの!?」
時刻は20時を回ったところ。
走ってきたのか、汗をかいて少し息づかいが荒い。
「いや…えっと……」
「??何かあった!?」
何か困った事とかあったのかな!?
「あのさ…「日和〜?どうした?」
足立くんが玄関にやってきた。
「悠…。どうしたんだよ」
「チッ……」
鈴原くんが小さく舌打ちをした。
それを聞いた足立くんは
「ふーん。わかった。相変わらず素直じゃねーな」
そう言ってリビングに戻っていった。
「鈴原くん、とにかく上がって?何かあったなら話聞かせて?」
「いや、俺は日和に会いた…「まぁ!!鈴原くん!!夕方以来ね」
またまた割り込みがあり、話が中断。
足立くんが呼んでくれたのか、お母さんがやってきた。
「鈴原くん、夜ご飯食べた?」
「いえ、まだで…」
「あらー!じゃあ、よかったらみんなで食べない?今食べ始めたところなのよ」
「お母さん!鈴原くん忙しいから…!」
「いいんですか?お言葉に甘えさせてください」
「もちろん!上がってちょうだい♪」
鈴原くん、大丈夫なの!?
「いいの?鈴原くん!練習とか…」
「大丈夫だから。心配かけてごめんな」
私の髪をくしゃっとしながらニコッと笑う。
「日和に会いたかったから」
ドキンッ!!
不意打ち過ぎて鼓動が激しく鳴る。
「お邪魔します」
そう言って鈴原くんはリビングに向かった。
最近の鈴原くんがわからない。
私はペタッと床に座り込んだ。



