──キーンコーンカーンコーン。


そうして、休み時間スタートの合図が鳴る中、靴箱まで全力疾走したあたしたち。

なんとか平常心を取り戻したあたしは、サッカーで酷使した足に更にムチを打ち、階段を駆け上がる。

そして3階まで上がって来たところで、誰かがあたしの肩を軽く叩いた。


「璃子ちゃん、手出して」


隣から聞こえてきた、小さな声。

えっ? と不思議に思いながら、ゆっくり右手を差し出す。


「昨日のお礼と、困らせちゃったお詫び。……みんなには内緒ね」


なんて口許に人差し指を当てながら、悪戯っぽい表情を見せたのは、雪平くん。

するとすぐ、手のひらの上にコロン、と小さななにかが転がった。

これ……。


「いちごみるくキャンディ……」


……あっ。

そっか。

これだったんだ。


「意地悪言っちゃったけど、怒ってないから安心して?」

「っ!」


……うそ。あたしが気にしてたの、わかってたの?

動揺して言葉を探していると、ポンと頭に重みが加わった。


「これでちょっとは俺のこと、男として意識してくれた?」

「っ、そ、それは……」

「……なんてね」


彼はそう言い残すと、そのまま男子の更衣場所へと走っていった。


……雪平、くん。

あたしはキャンディの乗った手のひらを、ギュッと握りしめる。


「璃子? 何突っ立ってんの?」

「ごめん、今行く」


あの香りの正体……わかっちゃった。


「なんか今日、やっぱり変じゃない?」

「そんなことないって」

「顔赤いし」

「えっ!? は、走ったからかなぁ……?」


そしてもう一つ。

あたしは大事なことに気づいてしまったんだ。