「ハルカ様、とても素敵ですわ」
「腕によりをかけた甲斐がありましたわね」

 鏡越しにかけられたクランさんとココさんの言葉に、じんわりと頬が熱を帯びる。
 視線を落とせば、真っ白なレースで覆われたふんわりとした衣装が映った。
 白無垢のような襟を会わせる衣装なのに、裾にかけて柔らかく広がる裾は、まるで西洋風のドレスのようにも感じる。
 この国の婚姻衣装であるこの服は、私のために仕立てられたものであり、クランさんやココさんも手伝ってくれたらしい。

「クランさん、ココさん、ありがとうございます」

 二人にお礼を告げれば、満面の笑みが返ってくる。
 昨日レイゼン様に想いを伝え、半ば強引に彼の花嫁となることを認めてもらった。
 明日は本当の結婚式にしてくださいねと念を押すように鼻先を押さえつけると、照れくささから逃げるように部屋に帰ってきてしまったが、正直後悔はしていない。

 ――私の想いが重過ぎて、レイゼン様が引いてなければいいけど。

 そんなことを考えれば、ふと顔がゆるんだ。
 彼が不安に思ったのなら、私が安心させてあげればいい。
 そうすれば、彼の花嫁として側にいられるのだから。
 鏡に映った自分の顔は、二人の手によって美しく化粧を施してもらったおかげか、まるで自分ではないかのように華やかに見えた。

「陛下も喜ばれますわね」
「まだ時間はありますが、早めに呼びましょうか」
「ふふ、それは良い考えですわね」

 ココさんの同意によって、クランさんはレイゼン様を呼びに向かっていく。
 その後ろ姿を見送りながら、落ち着かない心地で胸元を押さえた。

「……なんだか緊張してきました」

 今日レイゼン様と婚姻を結べば、私は彼の本当の花嫁となる。
 婚礼衣装に身を包んだ私を見て、彼はどう思うだろうか。

「誰しも婚姻前は緊張しますが、ご安心ください。陛下も顔を合わせれた瞬間、その美しさに言葉を無くすこと間違いなしですわ!」
「そ、そんなことは……」
「ふふ、せっかくですし、もう少し宝飾品を足しておきましょうか。少々探してまいりますわ!」

 昨夜から終始ご機嫌な様子のココさんは、足取りも軽く宝飾品があるという部屋に取りに向かう。
 その後ろ姿に、つい頬が緩んでしまった。
 この世界に残ると決めたのは、レイゼン様の側にいたいと思ったことが一番の理由だ。
 しかし、こうして温かく接してくれるクランさんやココさんと離れなくて済んだことも、私にとっては幸運だと思う。
 レイゼン様の花嫁となり、たとえいつか彼女達を見送る立場になるとしても、二人と出逢えたことには感謝しかない。
 そんなことを考えていれば、不意に生温い風が吹く。
 部屋を吹き抜けるようなその風に違和感を覚えて視線を向ければ、仕切り布の向こう――渡り廊下から降りた場所に、見覚えのある人物の姿があった。