「ハルカ様、とてもお似合いですわ!」
「お色が白いので薄桃色が映えますね。髪は半分下ろして女性らしさを演出いたしましょう」

 返事をしようとすれば、口を閉じるように言われて唇に紅が差される。
 今夜お祭りが開催されるとココさんから聞いたのは今朝のこと。
 日が沈み始めてから始まるというお祭りを前に、夕刻を迎える前から着付けや化粧にと大忙しだった。
 入浴を済ませ鏡の前に座った私は、ようやく最後のお化粧の時間となっている。
 外出用にと用意された衣装は、白地に細やかな装飾が施された袖口の広がったような上衣に、動くたびにふわりと広がる長いスカートを胸元で留めていた。
 鏡に映る自分を見ると、どうにもコスプレ感は否めないが、クランさんココさんも同じような格好をしているのだから、この世界ではこれが普通なのだろう。

「ハルカ様、何か気がかりなことでも?」
「あっいえ! 特にはないのですが、お祭りは近々と聞いていたので、こんなに突然開かれるんだなと驚いてしまって……」

 昨日陛下をデートに誘ったのは確かに私だ。
 しかし、まさか昨日の今日で実現するとは予想していなかった。
 鏡越しに髪をセットしていくクランさんの手つきを眺めていれば、ひょこりとココさんが顔を覗かせた。

「ふふ。実は私、主催側に孫がおりますので、少しだけせっついたんですの」
「ココさん!?」

 驚きに声を上げれば、両手で頬を包んだ彼女が嬉しそうに目を伏せる。

「昨夜帰られた陛下が、至急花嫁の外出用衣装を準備するようにと指示されたそうなのです。きっとハルカ様がお祭りの話をされたんだなと思い、これは一肌脱がねばと思いましたの!」
「……狸族は楽しいことが大好きですからね」

 クランさんはそう呟きながら、黄色い声を上げるココさんを見やる。
 その話を聞いて、ふと衣服に視線を向ける。
 どこか異国めいたその衣装は、なぜか自分にサイズがぴったりだった。
 私の視線の先に気付いたのか、クランさんはくすりと小さく笑みを溢す。

「ココの言った通り、この衣装はハルカ様のためにと陛下が贈られたものですわ」
「そう、なんですね」

 動揺を悟られないようにと短く言葉を返すも、じわじわと顔が火照っていくのがわかる。
 男性から贈り物をもらうなんて、初めての経験だった。
 それもこんな華やかで美しいドレスのような衣装を贈られて、嬉しくないはずがない。

 ――今日会えたら、一番にお礼を言わなくちゃ。

 緩みそうになる口端を引き結べば、鏡越しにこちらを見つめるココさんと目が合った。

「ふふ、愛する花嫁に衣装を贈るだなんて意味深ですわね!」

 目をきらきらと輝かせているココさんの言葉に、急に顔面が熱くなる。

「ココ、慎みなさい」
「申し訳ありませんっ」

 謝罪の言葉すらも楽しそうなココさんは、黒塗りの木箱の中に宝飾品を探しに向かう。

「いかがでしょう?」

 クランさんの声に鏡を見れば、普段はただ下ろしていただけの髪が、ふわりと膨らみをもったハーフアップに仕上がっていた。

「わっすごく素敵です!」
「お褒めに預かり光栄です」

 喜びのあまり角度を変えつつ髪型を眺めていれば、鏡越しに目が合ったクランさんに微笑みかけられる。

「そろそろ陛下が参られますから、準備をいたしましょうか」

 そう口にした彼女が髪飾りを付ければ、夕闇が迫りはじめた中庭のほうから微かな鈴の音が聞こえてきた。

「噂をすれば、ですわね」
「陛下も待ちきれないのですわ!」

 口々にそう囁いた彼女達は、仕上げとばかりにレースのような上着を掛けてくれた。

「どうか楽しんでこられてくださいね」
「素敵な思い出を作ってください!」