世界を停止させた聖お兄ちゃんの力に加えて、暗黒お兄ちゃんが怒りのままでスピアを出せば……!!

「待って! 雨塚君は攻撃しちゃダメ!」

 これは私達にだけ認識できる、一瞬の時の世界。
 その中で私は叫んだ。

 だって二人は絶対に、私の言葉を聞いてくれるから――!

 そして時間が動き出す。

「ぎゃああああ!!」

 男達への天誅。叫び声。
 私の首のナイフを当てたリーダーなんか、吹っ飛んで壁をぶち抜いて……近くの川に落ちたみたい。
 あとのみんなも、何が起きたかわからないうちに衝撃で気を失ったんだと思う。

 力の差は歴然だった……。
 暗黒お兄ちゃん、ちゃんと手加減してあげたんだ……。

「ルウ!」
「ルウちゃん!」

 すぐに私の元に、二人がやってきた。

「雨塚君は!?」

「ルウちゃん……自分の事より他人の心配が先なんだね」

「お前に言われたから、攻撃はしないでやったよ。同じ制服のガキが雨塚かなと思ったんだけど、そうだろ?」

「そう! あぁ……よかった」

 暗黒お兄ちゃんは豪快なんだ。
 雨塚君が制服姿で本当によかった。
 すぐに縄はほどかれて、暗黒お兄ちゃんが黒い長めのジャケットをかけてくれた。
 そして聖お兄ちゃんがお姫様だっこしてくれる。

「すぐに病院へ行こう」

「待って、まだ終わっていないの」

「どういう事だ」

「雨塚君の……私のお友達の幼馴染が、あいつらに監禁されてるの! 助けて!」

 周りが全員一瞬で倒された中で、雨塚君は恐ろしさで震えてた。
 それでも私が言った言葉で、目を見開いた。

「ルウちゃん……君は……こんな事をした僕の……ために……」

 そして彼の瞳から涙が溢れる。
 だって……だって、雨塚君はこうやって人質をとられていたんだもの。
 私はお兄ちゃん達みたいな力はないから、きっと雨塚君みたいな方法をとるしかない。

「お願い! 暗黒お兄ちゃん! 聖お兄ちゃん!」

 ふわりと暗黒お兄ちゃんが、お姫様だっこしてもらってる私を抱き締めた。
 三人で抱きしめ合うように……。
 聖お兄ちゃんも暗黒お兄ちゃんも、あったかいよ。

「ルウ、お前の願いは俺達が全部叶えてやる」

 いつもほっぺたをいじいじしてくる暗黒お兄ちゃんからの、おでこへの優しいキス。
 
「帰ったら、なんでも言う事聞けよ」

「うん……!」

「聖、お前は病院へ行け!」

「わかった」

 双子同士で、頷き合う。
 天使と悪魔だけど、二人はお互いを誰よりも信頼している半身なの。
 
 「イクロスの残党をぶっ潰す! 話はわかったな! お前らぁああああ!!」

 暗黒お兄ちゃんが叫ぶと、倉庫の周りから地響きのような『押忍!!』という答えが。
 もしかして……暗黒お兄ちゃんのチームの人……全員集合してる?? ひぇええ!
 
「じゃあ、僕のチームには現場研修を頼むよ」

「はい、聖様。お任せください」
 
 聖お兄ちゃんが優しく言うと、どこで聞いてきたのか白いスーツの人達も倉庫に入ってきた。
 雨塚君が悪魔だって、暗黒お兄ちゃんはすぐに察したんだろう。
 彼に話を聞いて、バイクの後ろに雨塚君を乗っけてチームの人達と出て行った。

 そして私は聖お兄ちゃんに病院へ連れて行ってもらったの……。