「それか、僕も一緒に駅で待つよ。さっき痴漢に注意って張り紙もあったしね」

「え……」

 痴漢、怖いな……。
 寒いなか、雨塚君まで凍えさせてしまうのはダメだよ……。
 昨日の二人を思い出すと……怒られちゃう? ううん、二人共優しいからわかってくれるよ……。

「じゃあ、少しだけお邪魔してもいい?」

「うん」

「雨塚君の好きな女の子の話を聞きたいかも」

「ふふ、僕の好きな子の話? じゃあお兄さん達のお話も聞かせてよ」

「お兄ちゃんの? うん」

「すごく興味があるよ」

 そう言って私は、雨塚君のおうちにお邪魔する事になった。

「お兄ちゃんにメールしないと」

「あ、きっと心配するから逆にしない方がいいかもよ?」

「ん~でも……」

「大丈夫、しない、しない……メールはしない……ね?」

「……しない……?」

「うん、しない……しない……しないんだよ……ね? しなくていいのさ……」

「……うん……」
 
 雨塚君の綺麗な天使の瞳……を見て……一瞬……クラっとした。
 普段だったら絶対するのに、私はその時……何故かスマホを出す事もしないで雨塚君の後をついていった……。 

 ◇◇◇

「ん……」
 
 どうして……?
 私は身体が動かない。

 どうして……なんで……?

 ここは……雨塚君のお家だよね……?

 可愛いイグアナを見て、猫ちゃんをもふもふして……。

 そして雨塚君が言ったの。

「僕はね、幼馴染の彼女が本当に大事なんだ」

 悲しそうに、雨塚君が微笑んだ。
 泣きそうな、顔で……。

 どうして、そんな悲しそうなの? って聞こうと思ったのに……。
 あったかくて甘いカフェオレを飲んだら、私の視界がぐるぐる回って……。

 クラクラして……眠くなって……、私はそのまま気を失ったんだ。

 そして今……身体が動かない……。
 真っ白な絨毯に、私と私の手から転げ落ちたカフェオレが飛び散ってる……。

「……ごめんね……」

「……雨……つか……くん……?」

 雨塚君が、私の近くで座り込んで……泣いてる……?

「こいつが、銀色の花嫁か……」

 別の方から声が聞こえた!
 部屋の中に、何人もいる……!?
 私は一気に恐ろしくなる。
 今、銀色の花嫁……って言った……?

「これであいつらも、もう終わりだ! ヒャハハハハーッ!」

「お前のその天使面が役に立ったな……悪魔のくせによお! あっはっは!」

「やめてくれよ!」

 私の周りで男達が楽しそうに邪悪に笑う……。
 天使面? 悪魔のくせに……?
 それに対して、雨塚君が言い返した……?

 もしかして……。

「ごめんね……ルウちゃん」

 絞り出すような雨塚君の声……。

「お嬢ちゃん、騙されちゃったねぇ! 君を愛するお兄ちゃん達を成敗する人質になってもらうからねぇ~!」

 うそ……!

「時間稼ぎをするぞ!! この娘を運べ!」

「あまつか……くん…………どうして……」

「……ごめん……ごめんね……ルウちゃん……」

 私は、動けないのに更に口になにか布を当てられて意識を失った……。

 お兄ちゃん……助けて……怖いよ……!