「シュウ前王妃……、これはどういうことですか?」
カザヤ様の硬い声が部屋に響く。私を離さないよう、ギュッと腕に力が入った。
「やだ、そんな怖い顔をしないで」
シュウ前王妃は余裕の笑みを浮かべてクスクスと笑う。
バルガがシュウ前王妃とカザヤ様の間にスッと入るが、それをシュウ前王妃は横目で見ると、可笑しそうにまた笑った。
「そこまで警戒しなくても何もしないわ。むしろ、私はこうなることを見越してラナに腕輪を贈ったのよ?」
「こうなることを見越して……? それは、あなたが企てたということでしょうか?」
バルガは冷静に落ち着いた声で聞く。シュウ前王妃は可愛らしく首をかしげた。
「とりあえず、オウガたちを捕らえるのが先ではなくて?」
床に転がるオウガや衛兵たちを一瞥する。
仮にもオウガは自分の息子であろう。それなのに平然と捕らえろと言ってくる。
息子の姿に動揺すらしない。
どうして?
ワサト隊長も戸惑いながら部下を呼び、オウガと衛兵らを確保した。とりあえずは牢屋へ入れて、言い分はそれから聞くことになる。
カザヤ様を手にかけようとしたのだから、いくらオウガとは言え、極刑は免れないであろう。
ただ生気が抜け落ち、空を見つめるその姿はまるで廃人のようだ。そんなオウガから、まともに話が聞けるとは思えないが……。
オウガが連れて行かれる間も平然としている前王妃に全員が戸惑っていた。
やっと部屋が落ち着くと、一人ソファーに座って状況を眺めていたシュウ前王妃が微笑んだ。
「最初に言っておくけれど、私は一切何もしていないわ。昔から何も……」
「昔から? それはどういうことですか?」
カザヤ様の声はまだ硬い。シュウ前王妃の言葉の意味を探ろうとする目をしている。
「そのままの意味よ。何度もあなたを毒殺しようとしたり襲撃していたのはオウガ。私も関与が疑われたけれど、全く何もしていないわ。いえ……、何もできなかった」
一瞬、その顔に陰が落ちる。
何も出来なかったって、どういうこと?
シュウ前王妃もカザヤ様を暗殺しようとしてたのだろうか?
しかし、出てきた言葉は意外なものだった。
「オウガが王座を狙って、度々あなたを殺そうとした。知っていたわ。あの子の性格ならやるでしょう。でも、私はそれを母親として止めることは出来なかった」
「止める気がなかったの間違いでは?」
バルガが冷めな声でそう答える。
「そうね、初めはそうだったのかも」
「オウガが他者を使って、俺を殺そうとしていたのはもう調べがついています。あなたが本当に力を貸していなかったのかは……、調べがついていませんでしたが」
疑うようなカザヤ様の言葉に、シュウ前王妃は小さく頷く。
「疑われても仕方ないわ。別にそこを弁解しようとはしない。力を貸していたと思いたければ思ってもいいわ。結局、狂っていくあの子を止められなかったんだもの。同罪よ。なんなら、私も極刑に処してもらっても構わないわ」
あっさりと言ってのけるシュウ前王妃に、息を飲んだのは私だけだった。
そんな簡単に極刑を受けるだなんて前王妃が言うと思わなかった。
カザヤ様やバルガ、ワサト隊長はその真偽を確かめようとしているのか……。動じず、じっと前王妃を見つめたままだ。
「死んでも構わないと平然と仰るのですね」
「フフ、別にもう命など惜しくはないもの。最後くらい親として責任を取ろうってだけよ」
そしてふぅと息を吐くと空を見つめながら呟いた。
「ねぇカザヤ様。少し昔話をしても良いかしら?」
カザヤ様の答えを待たずに、シュウ前王妃は語りだした。
「私が嫁いだのは15歳のとき」
一夫多妻制の王族に、廃れた貴族であったシュウ前王妃は第二妃として迎えられた。
選ばれた理由は申し分ない身分と、その秀でた美しい容姿。それだけであったことは、周囲も自分自身もよくわかっていた。
いつか、国王に嫁ぐ日が来る。
そう覚悟はしていたので、第二王妃になることに戸惑いはなかった。
しかし、15歳だったので王宮にはほとんど来たことがない。社交界デビューすらしていなかったのである。
知り合いも誰も居ない。
右も左もわからないシュウ前王妃は毎日不安の中過ごしていた。すぐには得られなかった国王の寵愛も不安の一つだった。
周囲が自分を何もできない小娘として見ているのは知っていた。お飾りのお人形だと。
自分は何のためにここにいるのだろう。
早く子を身ごもり、自分の存在意義を見いだしたい。容姿だけでなく、結果を残して認められたい。
そうしたら、王妃として堂々と過ごすことが出来るのに。
この王宮だって我が物顔で歩けるのに。
そんな気持ちがあったという。
幼い第二妃を蔑む使用人も少なからずいた。王宮のことなど、何も分かっていない第二妃を小馬鹿にする者もいた。
何のためにここにいるのだろうと囁かれ、家の繋がりだけで王宮に嫁いだ不出来な王妃と笑われた。
国王のお手つきにすらなれない。所詮は第二王妃だ、と。
国王もわかっていて何も言わない。王妃は子供を持たないと権力すら持てない。当時は古い体制のままの、そんな寂れた時代だったのだ。
どうしたら国王のお手つきになるのか。
どうしたら周りに認められるのか。
子供がいたら権力が持てるのに。
日々、焦りと焦燥が募る中、シュウ前王妃に声をかけてくれたのが、カザヤ様の実母である第一王妃サルマであった。
『わからないことがあったら私に聞いてね』
『最初は不安よね。大丈夫、時期に慣れるから』
サルマはバカにするわけでもなく、見下すわけでもなく、ただ穏やかにそう話しかけてきた。
優しく親切に声をかけてくれる人など誰もいなかった。
まさかライバルである第一王妃が話しかけてくるなんて夢にも思わなかったのだ。
『私たちはライバルではないわ。この国のために手を組む同志よ』
『私たちまるで姉妹みたいよね』
第一王妃は人徳もあり、心根の優しい人だった。王妃としての自覚も強く、国王のため国民のために生きる覚悟をしている人だった。
私もいつかこんな風に……。
シュウ前王妃は少し年上のサルマ第一王妃に羨望と憧れを持つとともに、その余裕さにいつしか嫉妬心を覚え始める。
自分が第一王妃だからという余裕から、内心、私をバカにしているのかもしれない。所詮、お前は第二王妃なのだ、と。
サルマ第一王妃には勝てない。彼女がいたら王妃として最高権力を持つことが出来ない。
そんな思いが胸を支配していった。
「今思えば、私付きの侍女たちが第一王妃を悪く言うので、余計にそう思い込む部分はあったのかもしれないわね。自分は二番目なのだという劣等感もあったわ。私は次第に彼女を避け、敵意を剥き出しにしていたの」
第一王妃が男児を身ごもったと聞いたのは、嫁いでから二年後だった。
ただただ悔しかった。
自分が先にと思っていたのに、その思いは打ち砕かれた。もし自分がこれから男児を妊娠しても、その子は頑張っても将来、国王になることはない。
ならば、自分はここに居る意味があるのか。
そんな時、ほどなくしてシュウ前王妃も男児を身ごもった。とてつもない、敗北感を味わったという。
「半年しか違わない義母弟……。それは、第一王妃やその周囲を脅威にさらすのには容易なことだった。なにより、私をとてつもなく怖がったのは第一王妃だったのよ」
「母上が……?」
カザヤ様が思わず声を上げる。
今までの話から、第一王妃の人柄を考えるとむしろ弟が出来たことを喜びそうな気がしていた。
しかし、第一王妃は第二妃とオウガを恐怖の対象のように怖がり怯えた。
大切な我が子の命が狙われている。いつしかそう思うようになっていたらしい。
「産後のホルモン変化もあったのかもしれない。いえ、もしかしたらこれが彼女の本当の姿だったのかも。本当は第二王妃の私が怖かった。それを表に出さないよう、私に気安くすることで必死になって隠していたのかもしれないわ」
何度も優しく声をかけたのに、一向に懐かず敵意を見せていた第二妃。その胸の内を察していつしか距離を取っていた第一王妃。
それは次第に不安の種となっていたのだろう。
第二王妃の敵意が脅威に感じていた。
第一王妃はその恐怖心から次第に心を病んでいったのだ。
そもそも産後の状態が悪く、その影響も大きかったらしい。
いわゆる、今で言う産後うつ……というやつだろう。
後から知った話だと、サルマ第一王妃が亡くなる直前には、カザヤ様を病弱に仕立て上げ、暗殺から身を守ろうと何度も国王に掛け合っていたのだという。
そして、第一王妃が亡くなった。
心を病み、心身ともに衰弱してしまったのだ。
周囲は第二妃が第一王妃を呪いで殺害したかのように噂した。
カザヤ王子も身体が弱い。第二王妃が産まれた時に呪いをかけたせいだとも。
そんなことは決してないが、シュウ前王妃の家系に占い師がいたことが噂を後押ししてしまったらしい。噂はいつしか本当のように語られる。
悲劇はそれだけではなかった。
国王もまた、その噂を信じてしまったのだ。
「それほどまでに第一王妃を愛していたのね。私は子を産む道具でしかなかった……」
語るシュウ前王妃の顔に陰りが見える。一度、ふぅと息を吐く。
「少し休まれますか?」
顔色が悪い。私が声を掛けると、シュウ前王妃はニコッと微笑み首を横に振った。
「もう少しだけ聞いてちょうだい」
国王はシュウ前王妃をお飾りの妃とした。愛はない。情もない。
王妃の位が空いていたので、仕方なしにというのは見え見えだった。
周囲からの監視の目は強く、国王はシュウ前王妃には決して心を開かず……。
カザヤ様にも決して会わせようとはしなかった。
かろうじてオウガとは面会をしてくれるが、義務的なものであった。
なんで私がこんな扱いをうけなければならないの?
他に王妃はいない。私はたった一人のこの国の王妃なのに!
国王に振り向いてほしかったシュウ前王妃は、自暴自棄となっていき、そのストレスから好き勝手な行動をとるようになっていった。
愛されずただ権力だけあるのなら、その権力を好きなように使おう……と。
権力を使って好き勝手しているときは、まるで周囲から自分の存在を認められているかのような気持ちだった。気持ち良かった。
そんな母や父を見て、オウガも次第に歪んでいく。
次期国王と囃し立てられ、甘やかされて好き放題を許されて自分中心に育ってしまった。当然、シュウ前王妃もオウガを甘やかした。
我が子に国王の素質がないことは見抜いていた。それが不憫で甘やかしに拍車をかけたのだ。
息子が可愛いという感情よりも、腹いせに近かったらしい。
オウガの振る舞いで困る国王や使用人、国民にザマァ見ろといった気分だった。
前王妃も狂ってたのだ。
「でもね、そんな私にも不思議となぜかずっと心の隅にあなたが居たのよ」
苦笑するシュウ前王妃に、カザヤ様は目を見張る。
「俺が?」
当然の反応だろう。今の話を聞いて、誰も前王妃の言葉を信じることは出来ない。
「あら信じていない顔ね。まぁ、当たり前よね」
信じなければそれでもいい、とシュウ前王妃は言う。
「同時に王宮という閉鎖的な空間で、彼女だけが私のことを気にかけてくれていたの。第一王妃に強い嫉妬や嫌悪感を抱きながらも、その気遣いは嬉しかった。勝手よね」
笑いながら遠い目をするシュウ前王妃は、第一王妃を思い出しているのだろうか。
「彼女はとても優しい人だった。気遣いのできる優しい人で……、心の脆い弱い人だったの。本心では私に怯えていたくせに、無視できなかった。お互いに意識していたのね、私たち。その人の忘れ形見がどう成長しているのか、ずっと気がかりだったわ」
第一王妃が亡くなり、カザヤ様は立場上、義理の息子になる。
病弱なもう一人の息子はとうしているのか。フッと気になる時があるようだ。
しかし、カザヤ様は信じられないという風に眉を顰めたままだ。
「いつ死ぬか、が気がかりたったのではなくて?」
「フフ、それも気にしたわ。楽しみというより、死んだら残念って感じかしら。ああ、オウガが国王になっちゃう、国が終わるわ……みたいなね」
前王妃だけが可笑しそうにクスクスと笑う。
「あなたは息子にとって邪魔な存在なのに、どうしてか完全に憎んだり恨むことは出来なかった。それがなぜなのか、未だにわからないのだけれどね」
不思議そうにする前王妃。きっと本当にわからないのだろう。
もしその感情に名前をつけるのなら、母を亡くした体の弱い義理の息子への母性なのかもしれないが、その一言で片付けるのは難しい。
そう言えるほど簡単なものではないのだろう。
「邪魔な存在なのに、死んだら困った。いても居なくても変わらない存在なのに、居なくなるのだけは避けたかった」
相反する気持ちが常に交差していた。カザヤ様の一挙一投足が気になってしまった。
そのとめ、シュウ前王妃は何年も隠密に体調や様子など細かいことも情報を探らせていた。
そしてある日、違和感に気づく。
毎日変わらない情報。病弱で寝たきり。
なのに、変わらなすぎる様子。そして、カザヤ様の情報がどうしても得られない時間帯。薬の違和感。
何年もかけ、微かに漏れ出る違和感を繋ぎ合わせ、カザヤ様が病弱でないことに気がついた。
「鳥肌が立ったわ」
何年もずっと身を守るために周りを偽って、カザヤ様が虎視眈々と国王になるその時を待っていると知ったのだ。
しかし、それを知らないオウガは何年もカザヤ様を本気で殺そうとしていた。
見て見ぬふりをしていた自分。
そこで初めて前王妃は危機感を感じたのだ。
もし、本当にオウガが国王になったらどうなる?
ぼんやり思っていたこと、そして他人事だったものが現実として押し寄せる。
オウガがカザヤ様が健康だと知ったら、ますます躍起になって殺そうとするだろう。
さらには、最近、前国王は病に伏せりがち。もし本当に国王が死んでしまったら? カザヤ様が国王に? いや、その前にオウガが本気で手段を選びずに殺しに来る。文字通りカザヤ様が死ぬまで。
もしそれでカザヤ様が本当に死んだら? オウガが国王就任したら?
この国は? 国民は?
一瞬で滅ぶだろう。
それは大げさでも冗談でもないことは、母親の自分はよくわかることだった。
オウガを歴史史上最悪の愚王として名を刻ませるわけにはいかない。何万もの国民を死なせてはならない。
カザヤ様こそが国王になるべきだ。
前王妃は何度もオウガに暗殺を止めるよう話をした。
カザヤ様が健康である以上、オウガに勝ち目はない。あなたは殺される。処刑されるだろう。
そう、何度も話した。
しかし、その頃のオウガは国王になることを確信し、母であるシュウ前王妃を蔑み、見下し、ないがしろにしてまともに話すら聞こうとしなかった。
母上は妄想に取り憑かれている、哀れだと笑うのだ。
「カザヤが健康な訳がない。寝ているだけの役たたずのために国民の税金を使うのは勿体ない。税金こそ、この俺のためだけに使うのだからな」
悪びれも無くそう明言するオウガに前王妃は言葉を無くす。
ああ、もうこの子は完全に狂っているのだわ。
狂気に身を委ねていたオウガを、前王妃はもう止められなかった。
しかし、こうなった責任は母である自分にある。
オウガが話を聞かないのなら、オウガがこれから狙うであろう人物達を守るしかない。
カザヤ様とその周辺の人達はすでに十分守られている。カザヤ様の体調すら漏れることはなかったのだから。
なら、本当に心配はいらないのか?
そんな時、前王妃は私の存在に気が付いた。
カザヤ様が頻繁に自分の元へと通わせる薬師。仕事以外にも特別な何かかあるのは明白だった。
「あなたがラナを大切にしているのが分かったわ。だから……」
「自分の専属薬師にすることでラナを守ろうとした。基本、オウガは自分のことに夢中だからそこまで周りを見ようとはしていない。それが幸いしたってわけか……」
でも、それも時間の問題だ。
少し調べれば、カザヤ様が私を気にしていることはすぐにわかること。前王妃が手を打ったのが少しばかり早かっただけ。
「そんな時、オウガが騎士団を弱らせて、俺を襲撃しようと目論んでいることが分かった。だから、ラナを自分の塔に泊まらせて安全を確保した……と?」
「えぇ。あなたはあの事件で襲撃の予測はついただろうし、何より強いわ。騎士団が使えなくてもワサト隊長がついているし心配はいらない。でもラナはそうはいかないでしょう。一度、国王崩御の時の襲撃に居合わせたのよね? またそうなったら可哀想だもの」
「よくご存知で」
カザヤ様は苦笑した。
国王崩御の日の襲撃についても詳しく分かっているようだ。
箝口令は敷いていても、前王妃付きの隠密の前では無意味だったらしい。
ここまで詳しく情報を得ているなんて……。
「私の元へいれば一番安全だから」
前王妃はそう微笑んで私を見つめる。
私は口をキュッと結んだ。
前王妃の意図を知らなかった。まさか、私を守ろうとしていてくれただなんて思いもしなかったのだ。
「では腕輪も?」
バルガが問いかける。
砕け散った腕輪はもう使えない。
「そうよ。腕輪は異国の呪具師に作ってもらったの。オウガに襲われたときに身を守れるよう細工をして。その通りになったわね」
「私のために?」
「こうなる可能性も0ではなかったでしょう?」
異国の呪具師にわざわざ作ってもらった物。
自分の息子が襲う時を想定してくれたのか。前王妃自身、こんな事は起きて欲しくなかっただろうに……。
でも、こうするしか方法がなかったのだ。きっと。
我が子に呪いが行くよう仕向けるなんて、どんな気持ちだったのだろうか。
廃人のようになったオウガを見ても、前王妃は取り乱さなかった。
そうとうな覚悟を感じる。
「はぁ~」
一通り話すと、シュウ前王妃は疲れたように深く息を吐いた。
そういえば顔色が悪い。元々体調が良くないのだから、たくさん話して辛かったのかもしれない。
「他に聞きたいことがあれば私の部屋へいらっしゃい。今は少し疲れたから、これ以上は無理みたい……」
シュウ前王妃は合図でやって来た侍女らに支えられるようにして立ち上がり、ゆったりと扉へと向かった。
「最後に一つだけ、よろしいでしょうか?」
カザヤ様は前王妃の背中に硬い声で問いかけた。
「なにかしら? 手短にお願いできる?」
「あなたはずっと責任をとると仰っていましたよね? 責任を持ってオウガを止めることだけではないですよね? 本当に処刑されてもいいということでしょうか?」
カザヤ様の真っすぐな目に、シュウ前王妃は見つめ返しながら笑みを浮かべる。
「母親だもの、当然でしょう」
そう言って部屋から出て行った。
翌朝、シュウ前王妃はベッドの中で眠る様に亡くなっていた。
カザヤ様の硬い声が部屋に響く。私を離さないよう、ギュッと腕に力が入った。
「やだ、そんな怖い顔をしないで」
シュウ前王妃は余裕の笑みを浮かべてクスクスと笑う。
バルガがシュウ前王妃とカザヤ様の間にスッと入るが、それをシュウ前王妃は横目で見ると、可笑しそうにまた笑った。
「そこまで警戒しなくても何もしないわ。むしろ、私はこうなることを見越してラナに腕輪を贈ったのよ?」
「こうなることを見越して……? それは、あなたが企てたということでしょうか?」
バルガは冷静に落ち着いた声で聞く。シュウ前王妃は可愛らしく首をかしげた。
「とりあえず、オウガたちを捕らえるのが先ではなくて?」
床に転がるオウガや衛兵たちを一瞥する。
仮にもオウガは自分の息子であろう。それなのに平然と捕らえろと言ってくる。
息子の姿に動揺すらしない。
どうして?
ワサト隊長も戸惑いながら部下を呼び、オウガと衛兵らを確保した。とりあえずは牢屋へ入れて、言い分はそれから聞くことになる。
カザヤ様を手にかけようとしたのだから、いくらオウガとは言え、極刑は免れないであろう。
ただ生気が抜け落ち、空を見つめるその姿はまるで廃人のようだ。そんなオウガから、まともに話が聞けるとは思えないが……。
オウガが連れて行かれる間も平然としている前王妃に全員が戸惑っていた。
やっと部屋が落ち着くと、一人ソファーに座って状況を眺めていたシュウ前王妃が微笑んだ。
「最初に言っておくけれど、私は一切何もしていないわ。昔から何も……」
「昔から? それはどういうことですか?」
カザヤ様の声はまだ硬い。シュウ前王妃の言葉の意味を探ろうとする目をしている。
「そのままの意味よ。何度もあなたを毒殺しようとしたり襲撃していたのはオウガ。私も関与が疑われたけれど、全く何もしていないわ。いえ……、何もできなかった」
一瞬、その顔に陰が落ちる。
何も出来なかったって、どういうこと?
シュウ前王妃もカザヤ様を暗殺しようとしてたのだろうか?
しかし、出てきた言葉は意外なものだった。
「オウガが王座を狙って、度々あなたを殺そうとした。知っていたわ。あの子の性格ならやるでしょう。でも、私はそれを母親として止めることは出来なかった」
「止める気がなかったの間違いでは?」
バルガが冷めな声でそう答える。
「そうね、初めはそうだったのかも」
「オウガが他者を使って、俺を殺そうとしていたのはもう調べがついています。あなたが本当に力を貸していなかったのかは……、調べがついていませんでしたが」
疑うようなカザヤ様の言葉に、シュウ前王妃は小さく頷く。
「疑われても仕方ないわ。別にそこを弁解しようとはしない。力を貸していたと思いたければ思ってもいいわ。結局、狂っていくあの子を止められなかったんだもの。同罪よ。なんなら、私も極刑に処してもらっても構わないわ」
あっさりと言ってのけるシュウ前王妃に、息を飲んだのは私だけだった。
そんな簡単に極刑を受けるだなんて前王妃が言うと思わなかった。
カザヤ様やバルガ、ワサト隊長はその真偽を確かめようとしているのか……。動じず、じっと前王妃を見つめたままだ。
「死んでも構わないと平然と仰るのですね」
「フフ、別にもう命など惜しくはないもの。最後くらい親として責任を取ろうってだけよ」
そしてふぅと息を吐くと空を見つめながら呟いた。
「ねぇカザヤ様。少し昔話をしても良いかしら?」
カザヤ様の答えを待たずに、シュウ前王妃は語りだした。
「私が嫁いだのは15歳のとき」
一夫多妻制の王族に、廃れた貴族であったシュウ前王妃は第二妃として迎えられた。
選ばれた理由は申し分ない身分と、その秀でた美しい容姿。それだけであったことは、周囲も自分自身もよくわかっていた。
いつか、国王に嫁ぐ日が来る。
そう覚悟はしていたので、第二王妃になることに戸惑いはなかった。
しかし、15歳だったので王宮にはほとんど来たことがない。社交界デビューすらしていなかったのである。
知り合いも誰も居ない。
右も左もわからないシュウ前王妃は毎日不安の中過ごしていた。すぐには得られなかった国王の寵愛も不安の一つだった。
周囲が自分を何もできない小娘として見ているのは知っていた。お飾りのお人形だと。
自分は何のためにここにいるのだろう。
早く子を身ごもり、自分の存在意義を見いだしたい。容姿だけでなく、結果を残して認められたい。
そうしたら、王妃として堂々と過ごすことが出来るのに。
この王宮だって我が物顔で歩けるのに。
そんな気持ちがあったという。
幼い第二妃を蔑む使用人も少なからずいた。王宮のことなど、何も分かっていない第二妃を小馬鹿にする者もいた。
何のためにここにいるのだろうと囁かれ、家の繋がりだけで王宮に嫁いだ不出来な王妃と笑われた。
国王のお手つきにすらなれない。所詮は第二王妃だ、と。
国王もわかっていて何も言わない。王妃は子供を持たないと権力すら持てない。当時は古い体制のままの、そんな寂れた時代だったのだ。
どうしたら国王のお手つきになるのか。
どうしたら周りに認められるのか。
子供がいたら権力が持てるのに。
日々、焦りと焦燥が募る中、シュウ前王妃に声をかけてくれたのが、カザヤ様の実母である第一王妃サルマであった。
『わからないことがあったら私に聞いてね』
『最初は不安よね。大丈夫、時期に慣れるから』
サルマはバカにするわけでもなく、見下すわけでもなく、ただ穏やかにそう話しかけてきた。
優しく親切に声をかけてくれる人など誰もいなかった。
まさかライバルである第一王妃が話しかけてくるなんて夢にも思わなかったのだ。
『私たちはライバルではないわ。この国のために手を組む同志よ』
『私たちまるで姉妹みたいよね』
第一王妃は人徳もあり、心根の優しい人だった。王妃としての自覚も強く、国王のため国民のために生きる覚悟をしている人だった。
私もいつかこんな風に……。
シュウ前王妃は少し年上のサルマ第一王妃に羨望と憧れを持つとともに、その余裕さにいつしか嫉妬心を覚え始める。
自分が第一王妃だからという余裕から、内心、私をバカにしているのかもしれない。所詮、お前は第二王妃なのだ、と。
サルマ第一王妃には勝てない。彼女がいたら王妃として最高権力を持つことが出来ない。
そんな思いが胸を支配していった。
「今思えば、私付きの侍女たちが第一王妃を悪く言うので、余計にそう思い込む部分はあったのかもしれないわね。自分は二番目なのだという劣等感もあったわ。私は次第に彼女を避け、敵意を剥き出しにしていたの」
第一王妃が男児を身ごもったと聞いたのは、嫁いでから二年後だった。
ただただ悔しかった。
自分が先にと思っていたのに、その思いは打ち砕かれた。もし自分がこれから男児を妊娠しても、その子は頑張っても将来、国王になることはない。
ならば、自分はここに居る意味があるのか。
そんな時、ほどなくしてシュウ前王妃も男児を身ごもった。とてつもない、敗北感を味わったという。
「半年しか違わない義母弟……。それは、第一王妃やその周囲を脅威にさらすのには容易なことだった。なにより、私をとてつもなく怖がったのは第一王妃だったのよ」
「母上が……?」
カザヤ様が思わず声を上げる。
今までの話から、第一王妃の人柄を考えるとむしろ弟が出来たことを喜びそうな気がしていた。
しかし、第一王妃は第二妃とオウガを恐怖の対象のように怖がり怯えた。
大切な我が子の命が狙われている。いつしかそう思うようになっていたらしい。
「産後のホルモン変化もあったのかもしれない。いえ、もしかしたらこれが彼女の本当の姿だったのかも。本当は第二王妃の私が怖かった。それを表に出さないよう、私に気安くすることで必死になって隠していたのかもしれないわ」
何度も優しく声をかけたのに、一向に懐かず敵意を見せていた第二妃。その胸の内を察していつしか距離を取っていた第一王妃。
それは次第に不安の種となっていたのだろう。
第二王妃の敵意が脅威に感じていた。
第一王妃はその恐怖心から次第に心を病んでいったのだ。
そもそも産後の状態が悪く、その影響も大きかったらしい。
いわゆる、今で言う産後うつ……というやつだろう。
後から知った話だと、サルマ第一王妃が亡くなる直前には、カザヤ様を病弱に仕立て上げ、暗殺から身を守ろうと何度も国王に掛け合っていたのだという。
そして、第一王妃が亡くなった。
心を病み、心身ともに衰弱してしまったのだ。
周囲は第二妃が第一王妃を呪いで殺害したかのように噂した。
カザヤ王子も身体が弱い。第二王妃が産まれた時に呪いをかけたせいだとも。
そんなことは決してないが、シュウ前王妃の家系に占い師がいたことが噂を後押ししてしまったらしい。噂はいつしか本当のように語られる。
悲劇はそれだけではなかった。
国王もまた、その噂を信じてしまったのだ。
「それほどまでに第一王妃を愛していたのね。私は子を産む道具でしかなかった……」
語るシュウ前王妃の顔に陰りが見える。一度、ふぅと息を吐く。
「少し休まれますか?」
顔色が悪い。私が声を掛けると、シュウ前王妃はニコッと微笑み首を横に振った。
「もう少しだけ聞いてちょうだい」
国王はシュウ前王妃をお飾りの妃とした。愛はない。情もない。
王妃の位が空いていたので、仕方なしにというのは見え見えだった。
周囲からの監視の目は強く、国王はシュウ前王妃には決して心を開かず……。
カザヤ様にも決して会わせようとはしなかった。
かろうじてオウガとは面会をしてくれるが、義務的なものであった。
なんで私がこんな扱いをうけなければならないの?
他に王妃はいない。私はたった一人のこの国の王妃なのに!
国王に振り向いてほしかったシュウ前王妃は、自暴自棄となっていき、そのストレスから好き勝手な行動をとるようになっていった。
愛されずただ権力だけあるのなら、その権力を好きなように使おう……と。
権力を使って好き勝手しているときは、まるで周囲から自分の存在を認められているかのような気持ちだった。気持ち良かった。
そんな母や父を見て、オウガも次第に歪んでいく。
次期国王と囃し立てられ、甘やかされて好き放題を許されて自分中心に育ってしまった。当然、シュウ前王妃もオウガを甘やかした。
我が子に国王の素質がないことは見抜いていた。それが不憫で甘やかしに拍車をかけたのだ。
息子が可愛いという感情よりも、腹いせに近かったらしい。
オウガの振る舞いで困る国王や使用人、国民にザマァ見ろといった気分だった。
前王妃も狂ってたのだ。
「でもね、そんな私にも不思議となぜかずっと心の隅にあなたが居たのよ」
苦笑するシュウ前王妃に、カザヤ様は目を見張る。
「俺が?」
当然の反応だろう。今の話を聞いて、誰も前王妃の言葉を信じることは出来ない。
「あら信じていない顔ね。まぁ、当たり前よね」
信じなければそれでもいい、とシュウ前王妃は言う。
「同時に王宮という閉鎖的な空間で、彼女だけが私のことを気にかけてくれていたの。第一王妃に強い嫉妬や嫌悪感を抱きながらも、その気遣いは嬉しかった。勝手よね」
笑いながら遠い目をするシュウ前王妃は、第一王妃を思い出しているのだろうか。
「彼女はとても優しい人だった。気遣いのできる優しい人で……、心の脆い弱い人だったの。本心では私に怯えていたくせに、無視できなかった。お互いに意識していたのね、私たち。その人の忘れ形見がどう成長しているのか、ずっと気がかりだったわ」
第一王妃が亡くなり、カザヤ様は立場上、義理の息子になる。
病弱なもう一人の息子はとうしているのか。フッと気になる時があるようだ。
しかし、カザヤ様は信じられないという風に眉を顰めたままだ。
「いつ死ぬか、が気がかりたったのではなくて?」
「フフ、それも気にしたわ。楽しみというより、死んだら残念って感じかしら。ああ、オウガが国王になっちゃう、国が終わるわ……みたいなね」
前王妃だけが可笑しそうにクスクスと笑う。
「あなたは息子にとって邪魔な存在なのに、どうしてか完全に憎んだり恨むことは出来なかった。それがなぜなのか、未だにわからないのだけれどね」
不思議そうにする前王妃。きっと本当にわからないのだろう。
もしその感情に名前をつけるのなら、母を亡くした体の弱い義理の息子への母性なのかもしれないが、その一言で片付けるのは難しい。
そう言えるほど簡単なものではないのだろう。
「邪魔な存在なのに、死んだら困った。いても居なくても変わらない存在なのに、居なくなるのだけは避けたかった」
相反する気持ちが常に交差していた。カザヤ様の一挙一投足が気になってしまった。
そのとめ、シュウ前王妃は何年も隠密に体調や様子など細かいことも情報を探らせていた。
そしてある日、違和感に気づく。
毎日変わらない情報。病弱で寝たきり。
なのに、変わらなすぎる様子。そして、カザヤ様の情報がどうしても得られない時間帯。薬の違和感。
何年もかけ、微かに漏れ出る違和感を繋ぎ合わせ、カザヤ様が病弱でないことに気がついた。
「鳥肌が立ったわ」
何年もずっと身を守るために周りを偽って、カザヤ様が虎視眈々と国王になるその時を待っていると知ったのだ。
しかし、それを知らないオウガは何年もカザヤ様を本気で殺そうとしていた。
見て見ぬふりをしていた自分。
そこで初めて前王妃は危機感を感じたのだ。
もし、本当にオウガが国王になったらどうなる?
ぼんやり思っていたこと、そして他人事だったものが現実として押し寄せる。
オウガがカザヤ様が健康だと知ったら、ますます躍起になって殺そうとするだろう。
さらには、最近、前国王は病に伏せりがち。もし本当に国王が死んでしまったら? カザヤ様が国王に? いや、その前にオウガが本気で手段を選びずに殺しに来る。文字通りカザヤ様が死ぬまで。
もしそれでカザヤ様が本当に死んだら? オウガが国王就任したら?
この国は? 国民は?
一瞬で滅ぶだろう。
それは大げさでも冗談でもないことは、母親の自分はよくわかることだった。
オウガを歴史史上最悪の愚王として名を刻ませるわけにはいかない。何万もの国民を死なせてはならない。
カザヤ様こそが国王になるべきだ。
前王妃は何度もオウガに暗殺を止めるよう話をした。
カザヤ様が健康である以上、オウガに勝ち目はない。あなたは殺される。処刑されるだろう。
そう、何度も話した。
しかし、その頃のオウガは国王になることを確信し、母であるシュウ前王妃を蔑み、見下し、ないがしろにしてまともに話すら聞こうとしなかった。
母上は妄想に取り憑かれている、哀れだと笑うのだ。
「カザヤが健康な訳がない。寝ているだけの役たたずのために国民の税金を使うのは勿体ない。税金こそ、この俺のためだけに使うのだからな」
悪びれも無くそう明言するオウガに前王妃は言葉を無くす。
ああ、もうこの子は完全に狂っているのだわ。
狂気に身を委ねていたオウガを、前王妃はもう止められなかった。
しかし、こうなった責任は母である自分にある。
オウガが話を聞かないのなら、オウガがこれから狙うであろう人物達を守るしかない。
カザヤ様とその周辺の人達はすでに十分守られている。カザヤ様の体調すら漏れることはなかったのだから。
なら、本当に心配はいらないのか?
そんな時、前王妃は私の存在に気が付いた。
カザヤ様が頻繁に自分の元へと通わせる薬師。仕事以外にも特別な何かかあるのは明白だった。
「あなたがラナを大切にしているのが分かったわ。だから……」
「自分の専属薬師にすることでラナを守ろうとした。基本、オウガは自分のことに夢中だからそこまで周りを見ようとはしていない。それが幸いしたってわけか……」
でも、それも時間の問題だ。
少し調べれば、カザヤ様が私を気にしていることはすぐにわかること。前王妃が手を打ったのが少しばかり早かっただけ。
「そんな時、オウガが騎士団を弱らせて、俺を襲撃しようと目論んでいることが分かった。だから、ラナを自分の塔に泊まらせて安全を確保した……と?」
「えぇ。あなたはあの事件で襲撃の予測はついただろうし、何より強いわ。騎士団が使えなくてもワサト隊長がついているし心配はいらない。でもラナはそうはいかないでしょう。一度、国王崩御の時の襲撃に居合わせたのよね? またそうなったら可哀想だもの」
「よくご存知で」
カザヤ様は苦笑した。
国王崩御の日の襲撃についても詳しく分かっているようだ。
箝口令は敷いていても、前王妃付きの隠密の前では無意味だったらしい。
ここまで詳しく情報を得ているなんて……。
「私の元へいれば一番安全だから」
前王妃はそう微笑んで私を見つめる。
私は口をキュッと結んだ。
前王妃の意図を知らなかった。まさか、私を守ろうとしていてくれただなんて思いもしなかったのだ。
「では腕輪も?」
バルガが問いかける。
砕け散った腕輪はもう使えない。
「そうよ。腕輪は異国の呪具師に作ってもらったの。オウガに襲われたときに身を守れるよう細工をして。その通りになったわね」
「私のために?」
「こうなる可能性も0ではなかったでしょう?」
異国の呪具師にわざわざ作ってもらった物。
自分の息子が襲う時を想定してくれたのか。前王妃自身、こんな事は起きて欲しくなかっただろうに……。
でも、こうするしか方法がなかったのだ。きっと。
我が子に呪いが行くよう仕向けるなんて、どんな気持ちだったのだろうか。
廃人のようになったオウガを見ても、前王妃は取り乱さなかった。
そうとうな覚悟を感じる。
「はぁ~」
一通り話すと、シュウ前王妃は疲れたように深く息を吐いた。
そういえば顔色が悪い。元々体調が良くないのだから、たくさん話して辛かったのかもしれない。
「他に聞きたいことがあれば私の部屋へいらっしゃい。今は少し疲れたから、これ以上は無理みたい……」
シュウ前王妃は合図でやって来た侍女らに支えられるようにして立ち上がり、ゆったりと扉へと向かった。
「最後に一つだけ、よろしいでしょうか?」
カザヤ様は前王妃の背中に硬い声で問いかけた。
「なにかしら? 手短にお願いできる?」
「あなたはずっと責任をとると仰っていましたよね? 責任を持ってオウガを止めることだけではないですよね? 本当に処刑されてもいいということでしょうか?」
カザヤ様の真っすぐな目に、シュウ前王妃は見つめ返しながら笑みを浮かべる。
「母親だもの、当然でしょう」
そう言って部屋から出て行った。
翌朝、シュウ前王妃はベッドの中で眠る様に亡くなっていた。



