ドロ痛α様に狙われて

 椅子から降りなければ、首の防御チョーカーは拾えない。

 私は今もまだ、力のこもった先生の手のひらで両肩を掴まれたまま。

 椅子に座った状態で捕らわれている私は、床にしゃがみこむことも不可能だ。


 前に立ち、私を真上から見下ろす絢人先生と視線が絡む。


 うわっ、怖い。

 普段の絢人先生は、優しさの塊でできているおっとり紳士なのに。

 メガネの奥の先生の瞳は、不気味なほど濁っている。

 優しさの色は、瞳から一切にじみ出ていない。


 どんどん人間からかけ離れていく先生の表情。


 表情筋が死滅しいているのに、息は荒々しくて。

 例えるなら、人間の魂を抜き取られたゾンビ。

 人間を食らおうとする化け物。

 時計の秒針がひとつ進むごとに、先生の目は狂暴なオオカミのように鋭く尖っていって……


 あれ?

 部屋に充満している、この甘ったるい匂いはなに?

 熟しすぎた桃のよう。

 脳をダメにするような甘ったるさで……