「歌夜がピアノを弾き終わってステージ袖に消えた後も、歌夜のことが頭から離れなかったよ」
「私の演奏、そんなヘタだった?」
「うますぎて鳥肌が立った。でも歌夜だけが異色だった。鍵盤を叩いている姿が、大嫌いなピアノと戦っているように見えたから」
「そういうの、やっぱりバレちゃうんだね……」
「悲しげな曲調じゃないのに、聞いてて心が痛めつけられた。ピアノを弾いてる人が心の中で泣いてるんだろうなって、あの頃の俺は勝手に解釈したけど」
すごいな、東条くんは。
私は憎悪を隠しきれていたと思っていたけど、見抜いていたんだ。
「小さい頃から私ね、ステージでピアノを弾くことが苦痛でたまらなかったんだ」
「母親のせい?」
「また悪い結果だったったらどうしよう。お母さんに幻滅される。私の子じゃないって怒鳴られる。ビクビクしながら、ステージで演奏をしてた」
「コンクールが終わった後、見ちゃったんだ。自販機の陰で、歌夜が母親に怒鳴られているところ」
「そっか。恥ずかしいところを見られてたんだね」



