「まさかとは思うが、佑利くんの性格に難があるのか?」
「ないよ。あるわけないじゃない。あの佑利さんだよ?」
「だったら迷うことはないな」

 いつの間に私はこんなにも外堀りを埋められていたのだろう。
 フゥーッと溜め息を吐いたあと、自室に戻って部屋着に着替えた。

 なんとなく、左手に佑利さんの手の感触がまだ残っているような気がする。
 すべてを包み込むように温かくて大きくて、思い出すだけでまた胸がドキドキとしてきた。

『俺は今日もっと好きになったよ』

 あの、甘美でストレートな口説き文句に心が震えた。
 どうしよう。家に帰ってからも、色香を閉じ込めたような彼の瞳が頭から消えてくれない。

 そんなとき、充電器に繋げたばかりのスマホが着信を告げた。
 かけてきた相手は諒太だ。
 スマホの画面でそれを確認した瞬間、熱に浮かされたように温められていた心が一気に冷えた。

「もしもし」

 正直、電話に出るかどうか迷った。
 だけどきちんとケリをつけて終わらせたい。そうしないと諒太も納得しないだろうから。

『もしもし奈瑠? 俺の話を聞いてほしい』
「諒太、もうやめよう。あなたと復縁はしない。私たちはここまでの縁だったんだよ」
『ちょっと待てって!』
「なに?」

 最後までケンカして話を終えたくないのに、諒太の語気がどんどん強まっていく。
 逆に私は凪いだ海のように冷静だ。