家の玄関扉を開けると、父がしたり顔で私を待ち構えていた。

「奈瑠、おかえり。早かったんだな」

 やけにニヤニヤとした笑みを浮かべる父を見て、しだいに腹が立ってきた。
 リビングの扉を開けると母もいる。私は上着を脱ぎつつ沈むようにソファーに腰を掛けた。

「お父さん、お母さん、いったいどういうつもり? お見合いだなんて聞いてなかったけど」

 今さら問い詰めたところでどうしようもないとわかっていても、ひとことだけでも言っておきたくなった。
 両親も私が帰宅すればこうなると予想していたはずだ。

「すまんすまん。見合いだと正直に伝えたら、奈瑠は行かないと言い出しそうだったから」
「だからって騙し打ちはひどくない? 私がどれだけ驚いたか……」
「だ、騙すだなんて人聞きが悪いな」
「間違ってないじゃないの」

 ムッと唇を突き出す私を見て、父が苦笑いをしたまま気まずそうに視線を逸らせた。

「二週間ほど前、佑利くんがどうしてもと望んでるから見合いをさせてほしいと天城社長から申し出があったんだ。社長もたいそう乗り気だった」
「え……社長も?」
「いい話じゃないか。奈瑠、お前は天城家に気に入られてるんだぞ」

 父は娘に騙し打ちをしたことなど微塵も反省していない様子で上機嫌だ。
 そばにいた母も、なにも異論などないとばかりに笑顔で見守っている。