「エリカ先生ー!今日も可愛いね!」
 名も知らぬ男子生徒が、軽薄さ丸出しで口笛を吹いた。
「えーそんなことないよぉ」
 本当に教師か?と疑いたくなるほどの嬌態で“エリカ先生”は舌っ足らずな口調で返す。
「うわぁ…流石、淫売エリカって感じ」
 私の右側を歩く少女の一人が不愉快そうに言い、私は自分のポーカーフェイスが崩れていないか不安になる。
「あんな女、よく教師になれたよね。いくら非常勤とはいえ」
 今度は、私の左側を歩く少女も、軽蔑したように言う。
「校長か理事長に色目使って採用されたんじゃない?」
「ありそー!っていうか、それしかないよね!」
 二人は、そう言ってケタケタ笑うけれど、私はちっとも笑えなかった。
「リツコもそう思わない?」
 右側の子に同意を求められ、私は動揺を隠しながら、
「それは…ノーコメント」
 曖昧な笑みでそう答えるしか出来なかった。
「偉いよね、リツコは。流石、新入生総代の優等生」
 褒められているのか、皮肉なのかわからないようなことを言われ、ますます戸惑いを感じる。
 私だって、ああいう女は嫌いだ。
 しかし、私には、嫌いだけでは済まされない事情がある。