俺たちは急いで球場に向かった。

試合開始まで、あと1時間を切っていた。

俺は何としてでもすずを甲子園に連れていくんだ。

頭の中はそれしか考えられなくて、

俺はリングノートを胸に抱きしめたまま、

車に揺られていた。

「本宮!!!本宮!!!!電話だっ!!!」

運転席の工藤監督が俺に叫ぶ。

電話、、、?

俺は工藤監督のケータイを受け取る。

「もしもし?」

「もしもし?!翔くん!?今すずが起きたのっ!!今すずに変わるわね!」

すずのお母さんの嬉し泣きする声が聞こえた。

「すず?!!!すず?!!!」

「翔っ!」

「すず!!!すず!!!!」

俺はただひたすらすずの名前を

叫び続けることしか出来なかった。

「翔、うるさいっ、耳がおかしくなりそうだよ。」

すずのか弱い笑い声が聞こえた。

「良かった、、、すず、、、。俺、すずが起きなかったらどうしようって思った。」

「バカ、この私が翔の決勝戦を見ないで死ぬわけないでしょうっ!?」

「すず、俺、、、」

もう、後で伝えよう、なんて思わない。

好きだ、今すぐに伝えよう。

そう思ったら、

「私も好き!翔のことが好き!大好き!!」

すずが言った。

え?

あの時の俺の声は届いていたのか?

「ずっと、翔の声聞こえてたよ。返事はできなかったけど、翔の声、ずっと私に届いてた。だから私も早く起きて翔に好きって伝えなきゃって、、、」

「だから目覚められたんだと思う。翔、ずっと私のそばにいてくれてありがとう。好き!本当に大好き!」

突然のことに頭がついていかない。

「おまえも、俺のこと好きでいてくれてたのか?南雲先輩は?」

「バカ!私南雲先輩と付き合ってないわよ!あの日翔が屋上でキスをした日、やっぱり私は翔のことが好きで、こんな気持ちで他の人とは付き合えないって思ったの!」

そうだったのか、、、

俺はバカだ。大バカだ。

ただの噂に振り回されて、

すずに気持ちを伝えるのが

こんなに遅くなっちまった。

「私たち、たくさん遠回りしたね。でも、今日からまた新たなスタートだよ。だから翔、今日の試合絶対に勝って甲子園に行こうね!!私もすぐに駆けつけるから!」

すずが力強い声で言う。

「バカっ、おまえはもうちょっと休んでろよ!また意識なくなったらどうするんだよ!」

そう言う俺にすずは言う。

「私、楽しそうに野球してる翔の姿を見るのが1番元気が出るから!!」

_______________________________

俺は球場に着いてすぐにウォーミングアップを始めた。

すずがくれたあのリングノート。

この3日間読み続けていたから丸暗記していた。

俺、今日絶対に抑えられる気しかしない。

俺はそんな気持ちでマウンドに立つ。

ふとベンチを見ると、

監督に連れられた

車椅子姿のすずが見えた。

こっちを見て元気な笑顔で手を振っている。



すず!俺たちの未来は明るいぞ!

俺が絶対におまえを幸せにするからな!

俺はこれからのおまえの人生、

おまえが想像もしていないような

世界に連れて行ってやる!

だからすず、

ずっと俺のそばにいてくれ。

_______________________________



"ブォォォォォオーーーーーーーーン"


球場に、試合開始を知らせるサイレンが鳴り響いた。