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私は翔が好きだ。

中学の頃から翔が好き。

私の初恋だった。

翔が野球をしている姿を見ている時間が、

私が人生で1番幸せで大好きな時間。



「「「男気じゃーんけーんじゃんけーんポンっ」」」」」

いつものように買い出しジャンケンをする私たち7人。

行くことになったのは、翔と優佳だった。

ズキン。それだけで胸が痛む。

2人は購買から全然帰ってこなかった。

翔はだるそうにしてたけど、

本当は優佳と2人きりの時間を

楽しんでるんじゃないか。

あの可愛い優佳と2人になれる事を

喜ばない男はいないだろう。

そんな事を考えていると2人が帰ってきた。

「あれ?すず、牛乳頼んでなかったっけ?」

姫花に言われて気づく。あ、本当だ。

「あー、今日珍しくいちごオーレ売ってたから、牛乳じゃなくてそっち買っといた!お前いちごオーレ大好きだろ?」

翔が私の好きなものを覚えていてくれたことが

私は本当に嬉しかった。

でもみんなが私のことを見ていたので、

「ちょ、私牛乳が飲みたい気分だったのに〜」

そんな可愛げのないことしか言えなかった。

翔は自分の牛乳と交換してくれるって言ったけど、

翔がせっかく買ってきてくれたいちごオーレを

交換するわけないでしょっ!そう思って

そのイチゴオーレを大切に飲み干した。

本当は飲まずに持ち帰って取っておきたかったけど、

なんで飲まないのか皆に不思議がられるだろうから

それはやめといた。


私はその日から、翔といちごオーレのことが

一層大好きになった。


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次の期末テストで赤点だったら

当分翔が試合で野球をする姿が

見られない事になってしまった。

そう思ったら、なんとしてでも

翔に赤点を回避してもらわなきゃ!

そう思った私は自分の勉強は後回しにして、

翔のために、眠い目を擦りながら

必死にテストの要点をノートにまとめた。

でも、翔のために作ったはずのノートは、

翔と優佳と烈の3人で回すことに。

2人に悪気はないだろうから全然良いんだけどさ、

なんかちょっと寂しい気分になった。



いつもより勉強ができなかった私は、

学年順位26位だった。

順位下がるとは思ったけど、

流石にここまで下がるとは思わなかったな。

みんなが順位表を見て喜んでいる横で、

涙が出そうになる。

私は教室に行くと言って急いでその場を離れた。


誰もいない屋上についたら、

涙が止まらなくなった。

あーあ、私はもうマネージャーとして

翔の野球する姿を見られないのかな。

そう思ったらもっと涙が出て来て止まらない、、、

もうすぐ朝礼なのにどうしよう。

そう考えていたら、

「、す、、ず?」

翔の声が聞こえた。

なんで翔がいるの?!!!

咄嗟に気づかれないように涙を拭く。

それでも私が泣いていることは翔にバレて、

お母さんとの約束を正直に話した。

翔は私がマネージャーを辞めることを

本当に嫌がってくれてすごく嬉しかった。

ちょっと元気が出た。

よし、もう一回お母さんを説得してみよう!!

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でもやっぱりお母さんは納得してくれなかった。

お母さんの気持ちもわかる。

私に将来苦労せず幸せになって欲しいだけなんだ。

次の日の朝、翔がどうだったか聞いてきた。

「やっぱりダメだったっ。」

私が悲しいのを隠して笑顔でそう報告すると、

翔はありえないって顔をして、

まさかの!!!うちに来て、

私のお母さんを説得するって言い出した。

なんて事言い出すの!と思ったけれど、

翔が私のためにそこまで一生懸命になってくれて

本当に嬉しかったし、

翔のことがもっと好きになった。


だめだ。

私、翔のことがどんどん好きになってる、、、

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その夜、なんと翔がお母さんが納得してくれて、

私はマネージャーを続けられる事になった。

これでまた、翔が野球する姿を近くで見られる!

本当に嬉しかった。


「翔、本当ありがとうね。何言っても納得してくれなかったお母さんが、許してくれた。」

私がそういうと翔は、

「まぁ、お前のお母さんなんか勘違いしてたけどな。俺達が付き合う事は絶対ないのにな!」

そう言った。

胸が張り裂けそうな思いだった。

やっぱり私たちが付き合う未来は

絶対にやってこないんだな。

だって翔にとって私は、

ただの野球部のマネージャーで

仲の良い女友達で"親友"なんだもんな。

涙が出そうになった。


「まぁ、許して貰えたしいいじゃん!」

なんともないようにそう言って、

翔に今日のお礼を言って、急いで

私は走ってその場から立ち去った。



とにかく走って走って走った。

胸の痛みがわからなくなるように。

でも胸は押し潰されるくらい痛かったし、

涙は止まらなかった。

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今日は翔の誕生日。

私は皆を代表して昨日の夜買っておいたケーキと、

何をあげようか1ヶ月悩んで、

ようやく先週の休みに買えた

ネイビーのネックウォーマーを持って

いつものように朝練に向かう。


翔喜んでくれるかな。

この前屋上で首寒そうにしてたからな。

朝練が終わったら渡そう。

そう思っていたけど、

朝練が終わってから

翔の姿が見当たらなかった。

先に教室行っちゃったのかな。

私は海斗と一緒に教室に向かった。



教室に向かう途中で、遠くで誰かが誰かに

抱きしめられているのが見えた。

誰だ?

「あれ、翔と日野さんじゃない?」

海斗が言った。

翔と優佳だった、、、

私達に気づいた優佳は

逃げるように教室に入って行った。

残された翔の首には、

今朝はしていなかったはずの

ネイビーのマフラーが巻かれていた。

きっと優佳があげたんだ。

私は持っていた紙袋をギュッと握りしめた。



「おう、すず、おつかれ。トイレ行きたすぎて先に来ちまったわごめん。その紙袋、もしかして俺に誕プレ?お前が俺の誕生日覚えてくれてるとはな、、俺は嬉しいぜ」

そう言うと翔は、私が持っていたネックウォーマーが入った紙袋を取ろうとした。

私は咄嗟に紙袋を隠す。

「なに自惚れてんの!こ、これは私の着替えが入ってる紙袋!」

はい。そう言って自分のために買っておいた

いちごオーレだけを翔に渡した。

きっと優佳が編んだのであろう

おしゃれなネイビーのマフラーを巻いている翔に、

買ってきたネックウォーマーなんて渡せないよ。

よりによって色も同じだし。

私は泣きなくなるのをぐっとこらえた。


「おま、これ絶対自分に買ったいちごオーレだろ。さてはお前、親友の俺の誕生日忘れてたな!!」

世界で1番大好きな人の誕生日、

忘れるわけないじゃん。

そう言いたかったけど言えなかった。

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「実はみんなに報告したいことがあるの、、、実は私達、、、」

屋上でみんなでケーキを食べていたら、

優佳が突然言った。

「付き合いましたっ!」

みんながえーーーーと口を揃えて言ったけど

私は1人、声が出なかった。

朝廊下で優佳が翔に抱きついてたから、

翔に告白したのかなと予想はしていたけど、

翔はこれまで野球一筋で、

どんな子に告白されても

彼女も作ってこなかったから、

今回もまさかOKするとは思わなかった。

人生で1番ショックな瞬間だった。

胸が張り裂けそうだった。

でも翔にとって私は"親友"で、

どっちみち私が翔に気持ちを伝えることは

一生出来なかった。

だってもし伝えたら、

今の関係が崩れてしまいそうだから。

そう思って、今できる1番の笑顔で

「おめでとうっっっ」

そう言って2人を祝福した。


ネックウォーマーが入った紙袋は、

そのまま家に持ち帰って

クローゼットの奥底にしまった。


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