今から三百年前、ティオリオルン神殿のある古都から現在の王都へと遷都が行われた。
 その理由は宗教的な干渉を逃れるため――神官たちが国政に口出しをするようになったからだ。

『信者たちがこんなことを求めています。ですから国をこう変えるべきです』

 神官たちは口々にそう主張した。
 けれど物事にはバランスというものが存在するし、少数の人間のために現状うまくいっている制度を壊すわけにはいかない場合だってある。それに、信者のためといいながら、実際には神官たちの私利私欲を肥やすための要求も多々あったことから、意見の採用はどうしたって慎重にならざるを得ない。

 そんななか、神官たちは国王ではなく有力な貴族たちにすり寄るようになった。自分たちの要求を通すため、金で貴族たちを買収しはじめたのだ。
 貴族たちにとっても神殿とのつながりは自分の権力を安定させることに通じるため、断るものはほとんどいなかった。

 しかし、これでは正常な国政運営が行えない。

 このため、当時の国王は神殿や神官たちが持てる力を大幅に制限し賄賂を受け取った貴族たちを罰した。そして、現在の王都に都を移したのだ。

 その結果、神殿の力は当時よりも相当弱くなっており、今では単に民たちの心の拠り所として存在している――はずだった。