起きるとそこは黒で統一された部屋だった。寝ぼけて一瞬自分の状況がつかめなかったが、
「起きたか。」
という男の人の声ですべて思い出した。
「さて、お前も起きたことだし、自己紹介でもするか。」
「...神崎(かんざき) (めい)。16歳で、野いちご学園の高2。...あなたは?」
「俺は夜桜(よざくら) 真帆(まほろ)。24歳だ。」
う...年上だったか...ここは敬語を使った方がいいかもしれない。
「夜桜さん...今何時ですか?」
「俺のことは真帆でいい。12時50分だな、あと10分で昼飯の時間になるから昼飯頼まねぇと...」
そういってユーバーイーツに電話をかけ始めた真帆さん。
『はい。ユーバーイーツです。ご注文お伺いしてもよろしいですか?』
「んー...全部1個ずつちょーだい」
『ぜ、全部でございますか?』
「...2回も言わせんな」
『ヒィッ!失礼いたしました。では商品が出来上がり次第もっていきますね...』
「あぁ。遅かったら...分かってるよな?」
『は、はぃぃぃ。』
その後、小声で住所を言った後、すぐさま電話を切った真帆さん。
...というか、滅茶苦茶ナチュラルに店員さん(おど)してたよね...?
(おど)かすのはメ、ですよっ」
そういうと彼は顔を赤らめて黙りこくってしまった。
「...真帆さん?」
「っあ、ああ、善処する。」
なんか変...?なんて、少ししか話してないのにわかるわけないし、気のせいかな...?
それから2、30分ほど経って、チリンチリンという鈴の音とともに、「ユーバーイーツでーす。」という声が聞こえた。
どうやらさっきの鈴の音はインターホンのようなものらしい。
「実は俺、お前と俺入れて6人とシェアハウスしてて。んでさらに別棟に20人くらいいて、そいつらと飯食ってるんだけど、おまえも一緒に食うか?」
本当はあまり人と関わりたくないけど...これからも私は真帆さん以外の4人とも関わっていくだろうから...早い段階で会っておいたほうがいいよね。
「はい...私もその方々と食べます」
「ん。」
私の返事を聞いて満足げに笑う真帆さん。思わずドキッとしてしまった。
―――――い、いやいやいや!ただ単純に顔が整っているからであって、別に変な意味じゃ...って!変な意味ってどういう事!?
なんてパニクっていると、真帆さんが
「なにぼーっとしてんだ。早く来いよ。」
と声をかけてきた。
部屋を出ると、長ーい廊下に続いていた。
私たちがさっきまでいた部屋の扉には「真帆の部屋」というプレートがあり、あそこが真帆さんの部屋だったことを今更ながら知った。
え、もしかして真帆さん私がいて迷惑してたんじゃ...?
「す、すみません...」
「は?いきなり何?」
「えーっと、さっきの部屋、真帆さんの部屋だなんて知らなくって...私なんかがいて、迷惑でしたよね...」
「別に。俺が勝手に決めたことだし、気にすんな。」
「でも...」
「じゃあ、お前のこと、抱いてもいいわけ?」
「えっ...」
「ほら、無理だろ?じゃあ気にすんな」
そういわれたタイミングで、玄関についた。
正直ほっとした。あのままだったら、すごく気まずかったと思うから。
少しして十個もの大きな箱を持った真帆さんが、
「ほかの奴らにはお前が寝てる間に説明しておいてある。ついてこい。」
そういわれてとことことついていく。
しばらくしてついたのは、「食堂」というプレートがついた扉。
真帆さんが開けると、周りがシーン......とした。
「彼女は」「神崎 明です!仲良くして下さると嬉しいです!」「....だ、そうだ。」
そういうと、周りがヒソヒソと小声で話しはじめた
「真帆さん狙いでほかの組が送り込んだんじゃ...」
「でもそれを真帆さんが見抜けないわけないだろう...」
「それに女スパイにしては、、、なぁ」
「細すぎるし......弱そうだし...女スパイなんて十中八九口説き落として情報を吐かせるのが目当てだから...女スパイには向いてなさそうだな...」
「顔も大人っぽいっていうよりは...おとなしそうな感じ」
「明らかに組の人が苦手なタイプだよなぁ...ま、俺は結構タイプだけど...」
...等々(などなど)
...組?女スパイ?情報を吐かせる?
....なんかよくわからないけど、怪しまれているみたいです。
明らかに座っている人数が少ない机に座った真帆さん。隣の席をポンっと叩いて、
「ここに座れ」
といった。
―――――隣に座れるのがうれしかったのは秘密だ。
私が席に着いた途端に、みんなが机に置かれた食べ物を食べ始めた。私も寿司を食べることにした。
ゆっくりとしっかりとかんで、飲み込んだ。
―――――――ポロッ
意図せず涙が零れ落ちてきた。
「...明?!どうしたんだ?!」
私の涙に真っ先に気づいた真帆さんが焦ったようにそうたずねてくる。
もともと静かだったこの空間に大声が響いたので、みんなが見ている。
ど、どうしよう...みんな見てる...
これは正直に答えたほうがよさそうだ...
「あ、あのっ...お、お寿司があまりにも美味しくて」
「うん」
「それで、そんな美味しいものを食べれてると思うと...感動して...」
「そうか。気に入ったみたいでなによりだ。」
(一方ーーーー残りの人はと言うと。みんな「あの真帆さんが優しすぎるだと...?」と自分の耳を疑っていた)
その後涙が落ち着いた私はご飯を食べようと思ったがお寿司一貫だけでもお腹いっぱいなので
「ごちそうさまでした」
と呟くと、
右隣の隣の人(真帆さんは左隣)が、
「本当にそれだけでいいの~?ちょっとあまりにも少ないんじゃない?」
知らない人にいきなり話しかけられて少ししり込みしてしまった。するとなにを勘違いしたのか、
「きんちょーしてるの?...ふっ。かわいーね」
そう言って肩に手を置いてきた。
異性に触られるなんて経験はあまりなかったので、おもわず「やぁっ」と声を出してしまった。
「ふふ。かわいー声もっと聞かせて?」
そう耳元で言われて、怖がっている自分に気づいた
「だめっ......」
見ていられずギュッと目を瞑る。
するとパシッという音と共に、
「お前、、、ふざけんなよ、、、!」
怒りにふるえる真帆さんの声が届いた。
恐る恐る目を開けると、真帆さんが男の人の手を振り払った後、平手打ちをしたようで男の人が痛そうに倒れていた。
ーーーーーーええ?!
おもわず声をかけてしまった
「大丈夫ですかっ、、、?」
「っああ。まほのせいで目眩するけど。」
「え、、、?!それ大丈夫っていいませんよ、、、。すみません。私のせいで、、、。」
「え?!明ちゃんは何にも悪くないじゃん!」
「いえ…私の危機管理能力が低いというか、、、本気で嫌がればやめたと思うのに…うまく話せなくて、、、」
「あはっそりゃそうだよ。君がスパイかどうかだけ確認しようとおもったんだもん。ごめんね?いくら確認の為とはいえ…」
「ス、スパイ、ですか...?」
「うん。俺らこれでもヤk...ムグッ」
「お前なぁ、余計なこと教えようとしすぎ。明が怖がったらどうしてくれるわけ?」
何かいいかけた男の人の口を焦ったようにふさいだ真帆さん
...?何か隠し事してるのかな?
その時私は何を隠しているのかを考えていたので、
「お前まさか俺らが夜桜組ってことも教えずに食堂まで連れてきたのかよ...?!」
「こいつに怖がられたくないからな」
「うわ...なんか真帆が言っていると思うと鳥肌立つわ」
...と男の人と真帆さんが話していることを知る由もなかった。
「あっ自己紹介がまだだったね....おれは(あずま) 青夜(せいや)だよっ!ぴちぴちの20歳だよん♪青夜って呼んでね」
「えっと...せいやさん?」
「うん♡」
距離感が少しおかしいのが青夜さんっと。
「残りの三人も自己紹介して」
という真帆さんの声でくるっとこっちをむいたのは同じ机ののこりの三人。
あ、この机はシェアハウスしてる人だけが使ってる机、ってことかな?
「こんにちは!私は夜桜 香澄(かすみ)!真帆くんのお母さんよ~ここ、女の子全然いないから明ちゃんみたいな可愛らしい子が来てくれて嬉しいわ~」
「えっと...香澄さん?って呼んでもいいですかっ?」
「もちろんよ~」
いい人そうでよかった...
「私は夜桜 (いさむ)。真帆の父だ。私のことは勇と呼んでくれ」
「おれは司波(しば) (あかつき)だ!16歳だ。ベリーズカフェ学園に通う高2だ!」
ベリーズカフェ学園って...野いちご学園の姉妹校だ!
なんだか親近感がわくなぁ...
「ちなみに、まほ、あおよる、すみ、さむ、つきっていうあだ名もあるんだけど、どうする?」
そう青夜さんに言われて首をかしげる。
「どうするって...どういう意味ですか?」
「いやーあだ名で呼んでくれないかなーって。」
「っわかりました!」
「うーん明ちゃんは...メイメイとか?」
「じゃそれでおねがいします。...あだ名まで考えてくださりありがとうございます...あおよる、さん?」
「あははっさんずけは変わらないんだ?」
「つき君以外は年上なので...」
「...まて。なんでつきは君付けなわけ?おれは?」
「え...まほさん?」
「なんでだよ。」
そう言って不貞腐(ふてくさ)れているまほさんが可愛くて思わずふふっと笑ってしまった。
「じゃあまほくんって呼ばせてもらいますね」
「ん。もうつきの事特別扱いすんなよ。」
もしかして...まほくんとつきくんは...恋仲だったの⁈
「どうしたんだ?いきなり黙り込んで。」
「いや、まほくんの気持ちに気づいて...そうですよね!嫌ですよね!私がつきくんだけを君付けにしたから嫉妬してしまったんですよね?すみません!」
「お、おお...よくわかったな。」
「大丈夫ですよ!今は多様性の時代ですもんねっ!私は二人の恋路を応援してますよ!」
そういうとなぜかまほさん…じゃないまほくんが落ち込み、あおよるさんがあははっと大声でわらった。
「それ逆にまほにはダメージかもよ?」 
「えっ...」
「めいめいちゃんにはちょっと早いお話だったかな?」
う、わからない、、、
こくっと頷くとあおよるくんは「素直だね」と微笑みかけてきた。
「...おれと明は一緒の部屋で暮らすから」
「えっ!?そんなの聞いてません!」
ぎょっとして聞き返しても、「今決めたからね」と言われるだけだった。
え…せめて確認とろうよ…ルームシェアなんて、、、緊張しちゃうじゃん!
…あれ?私、少しも嫌じゃない…?
どうしてだろう?
まぁ、なんでもいっか!
「でも…」
「…嫌か?」
「嫌っていうより…部屋でも気を張っていないとって思うとちょっと…」
「俺の前ではリラックスしておけばいい。」
「うーん…でも…」
「俺の部屋で過ごすのは、、、嫌か…?」
う…ちょっと悲しそうな表情…これ犬の耳ついてたらしょんぼり垂れ下がってそう…正直滅茶苦茶断りづらい…
「わ、分かりました。」
そういうとまほくんはぱああ…!と顔を輝かせた。
う…か、可愛い…!
で、でもいったら怒られそう...そう思ったのは内緒だ。
「んじゃ、俺と明は戻るわ。」
…そういえばさっきは気にならなかったけど、まほくんは私のことめいめいって呼んでないな〜。まぁ、いっか!