「ご機嫌麗しく存じます、王妃様。先日はリシャール様がお世話になったそうですね。王妃様のおかげで薔薇が元気になりそうだと話してくれました」

 王弟のリシャールは、ルフェーブル公爵家に滞在している。
 実の兄であるアンドレよりもラウルに懐いているともっぱらの噂だったが、やはり親しいようだ。

(リシャール様の懐きようからしても、ラウル殿は見た目ほど怖い人ではないのですよね)

 以前、王太后の側近たちからかばってくれたし……。

 期待を寄せてラウルに視線を送るが、ベール越しに見えた口元がひん曲がっていたので、シュゼットはさっと視線を下げる。

 直視できない。いい人だと分かっていても、怖いものは怖い。
 恐ろしいのは顔だけではなかった。

 ラウルは、アンドレの代理となって実際に国政を動かしている。
 もし原稿を見られて、シュゼットにエリック・ダーエと個人的なつながりがあると知られたら厄介だ。

(有能なこの人に疑われたら、ダーエ先生に迷惑がかかります)

 エリックを守るためにも、ここは早く解放されたいところだ。

「いいえ、お世話になったのは私の方です。庭仕事に興味があったので、お手伝いさせていただけて嬉しかったです。私の侍女がたまたま植物に詳しくてお役に立てて幸いでした」

 世間話を終わらせるつもりで返したが、ラウルはさらに突っ込んできた。

「そうなのですか? リシャール様は、王妃様が薔薇と話して、なぜ元気がないのか教えてもらっていたと話していましたよ」
「しっ、知りません。私は物の声なんて聞こえませんから!」