はっとするような低い声がした。
 通路の先にラウルがいて、シュゼットを笑いものにしていた王太后の従者たちをにらみつけている。

「さすがは王太后仕えの者だ。王妃殿下に対してずいぶんな口を聞くのだな。不敬罪は問答無用で処刑だが、そうなる覚悟があってのことか?」
「い、いいえ!」

 従者たちは青を通り越して白い顔になって震えた。
 ラウルの機嫌一つで処刑になるかどうか決まる瀬戸際だ。

 シュゼットは見ていられずに声を出した。

「ラウル殿、彼女たちを許して差し上げてください。私の顔に傷跡があるのは本当のことですし、国王陛下のご興味を引けないのも私が悪いのです」
「王妃様……」

 いじめた相手にかばわれて、従者たちは息をのんだ。
 虚を突かれたのはラウルも同様で、驚いたように目を見開く。

(私が言い返さないと思っていたのでしょう)

 けれど、シュゼットは壇の上に飾られているだけのお人形ではない。

「私がフィルマン王国の王妃として宮殿に集う方々に認められないのは、ひとえに私の力不足です。この場での言葉は、私への罵倒ではなく教示に他なりません。誰にも罵られない立派な王妃になるために務めなさい、と」

 だから、不敬の件は不問とします。

 きっぱり告げたシュゼットに、周りの者たちは引き込まれていた。
 頼りなさげに見えていた新米王妃が、予想もしなかった気高さで自分たちに命じている。

 彼らの上に立つラウルもまた、シュゼットに心を奪われていた。

「貴女は、本当に……」